健康寿命を全うするところまで、積立投資をしてみよう
Q-9
もう50代なのですが、今から始めてもいいですか。
始めて下さい。iDeCoの場合、加入期間が60歳までなので、50代で始めると、ほとんど残高が積み上がらないので、一部では「あまり意味がない」という声もあるのですが、それでもゼロよりはマシです。もし余力があるなら、50代でもiDeCoを始めて下さい。
という前置きをしながら、やはりおすすめしたいのはつみたてNISAです。つみたてNISAはiDeCoのように加入期間が決まっていないので、少なくとも投資可能期間が終了する2037年までは積立を続けることができます。
たとえば今が2019年で50歳の方なら、2037年は69歳です。定年になってお金に余裕がないという人もいると思いますが、再就職でも何でもして毎月の給料を稼ぎながら、積立投資を続けてもらいたいと思います。
「健康寿命」という言葉をご存じですか。これは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されているもので、2016年に厚生労働省が発表した数字によると、男性が72.14歳、女性が74.79歳でした。
つまり、ここまではなんとか健康に、病院に頼らなくても生活できるということです。ただ、それ以降は病気しがちになり、病院に入院するケースや、場合によっては介護施設のお世話にならざるを得ない状況も想定しておく必要があります。本当にお金が必要になるのは、そこからでしょう。
出来れば健康寿命を全うするところまでは働きましょうということです。それと同時に積立投資を続けます。そうすれば、健康寿命に達して、そこから先、自分自身の寿命が尽きるまで、何とか凌げる可能性が高まります。ちなみに日本人の平均寿命は、2017年の数字だと、男性が81.09歳、女性が87.26歳ですから、健康寿命以降の時間は、男性が8.95年、女性が12.47年になります。最低でもこの間をカバーできるお金を作るという意味でも、50歳だからといって資産形成するのに遅すぎることはないのです。
ちなみに金融広報中央委員会が2017年11月に公表した「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」によると、50代で金融資産を保有していない世帯は、全体の31.8%を占めました。何と3人に1人が無貯蓄なのです。
でも、悲しむ必要はありません。70歳まで働きながら資産形成をするという覚悟を決めれば、50歳からでも20年間、資産形成をする時間があります。何事も諦めないことが肝心です。
はい、始めてください。つみたてNISAなら個人型確定拠出年金(iDeCo)と違って、何歳からでも始められます。
投資信託は相続も可能、永久の運用こそ本当の長期投資
Q-10
20年も続ける自信がありません。「長期投資」とは何年くらいを指すのでしょうか。
長期投資をしましょう、という話をすると、よく返ってくる質問は、「長期投資って何年間、運用すればいいんですか?」というものです。
ある金融機関では、投資信託を購入しようとしている顧客に対して、「投資信託は長期投資が鉄則ですから、できれば3年から5年は保有してください」と説明しているそうです。3年から5年の運用期間を長期投資と言ってしまうところに、投資信託を販売している金融機関の問題点があるように思えます。証券会社や銀行を通じて多くの投資信託が販売されていますが、その販売スタンスにこそ、今の投資信託業界が抱えている大きな問題点があるのです。
改めて長期投資の定義について考えてみましょう。
私は、長期投資に期限はないと考えています。3年から5年程度の運用期間は、長期投資とは言えません。私が考える長期投資の定義からすれば、3年から5年程度では、中期投資にも含まれません。極端な言い方をすれば、短期投資に含まれると考えても良いでしょう。
では、私が思う長期投資というのは、どのくらいの期間を指すのか。それを、具体的に言うのであれば、「永久に運用すること」こそ、本当の長期投資だと思うのです。
スイスのプライベートバンクなどになると、それこそおじいさんの代からひ孫の代を超えて、何代にもわたって、その一族の財産管理を行うということが、ビジネスとして成り立っています。それに近いイメージを思い浮かべてください。
もし、あなたがこれから長期投資を志し、毎月数万円程度ずつ積み立てていったとします。その目的は、あなた自身の老後生活に使うお金を貯めるためかもしれません。
でも、だからといって、自分が会社を退職したときから、すっぱりと積立投資を止めたり、投資そのものから手を引いたりするのが正しい行動かというと、それは間違いです。定年を迎えてからも、もし資金的に余裕があるのであれば、積立投資を継続していけば良いし、あるいは積立投資は止めたとしても、引き続き投資信託などを活用した運用は、継続していくべきでしょう。
前述したように、これからの時代は公的年金の受給額が減らされたり、医療費負担が増やされたり、あるいはインフレで生活レベルが低下したりするリスクが想定されるので、運用を継続しておいたほうが、こうしたリスクから大事な資産を守ることにつながる可能性があるからです。
そして、お金が必要になったときは、随時、ファンドの一部を解約することによって、現金を手にすれば良いのです。投資信託は一部解約が可能なので、当面、必要な資金だけを解約し、残りはそのまま運用を継続させることができます。
その結果、財産を全額使い切らず、残して亡くなられる方も大勢いらっしゃると思います。
でも、それはそれで良いのではないでしょうか。投資信託は、解約することなくそのまま相続することが可能です。残った財産は、次の代に引き継いでもらえば良いのです。運用期間が無期限のものを選ぶのは、そのためでもあります。前述したように、プライベートバンクに財産管理をしてもらっている富裕層などは、自分が残した財産を、子々孫々がきちっと引き継いでいけるように、さまざまな対策を講じています。
それと同じように、自分の代で使い切れなかったとしても、その財産は自分の子供や孫に引き継いでもらって、更に長期投資を続けることで、どんどんお金持ちになってもらいましょう。
また、自分の子供や孫たちに、世の中のためになる、より良いお金の使い方をしてもらえるようにするためにも、自分がまだ健康なうちに、子供たちにお金の使い方をきちっと伝授する必要があります。
あるいは、資産を子孫に残すのではなく、社会に寄付するという方法もあるでしょう。自分が生きている間、ずっと運用を継続し、自分が他界するときには、その運用で増やした資産の多くを、広く社会に還元するために寄付するというのは、なかなか格好の良いお金の使い方だと思います。
長期投資というのは、そういう格好の良いお金の使い方をするためのきっかけになります。投資を始める前から運用期間を決めてしまうようでは、長期投資とは言えません。
本当の長期投資に「ゴール」はありません。20年でも短すぎるくらいです。
中野 晴啓
セゾン投信株式会社 代表取締役社長