投資信託は「普通の生活者」に有益な資産形成手段
Q-1
株、FX、仮想通貨などと同じように、投資信託も難しそうで、怪しそうな気がしてしまいます。どのように考えたらよいですか?
確かに昔は、本当にもうどうしようもない投資信託がたくさんありました。質問の方のように「怪しい」と思ってしまわれるのも仕方ありません。
そもそも、投資信託は、米国では資産作りのために利用されていますが、日本では金融機関の「手数料稼ぎの道具」として、使われてきた歴史があります。証券会社を中心とする販売金融機関は、さまざまなファンドを売って、多額の手数料収入を稼ぎ出したことから、投資信託が自分たちにとって、とても儲かる商品であるということに気付きました。
そうなると、投資信託を販売する証券会社は、次々に自社系列の投信運用会社を設立し、自分たちが手数料を稼ぐためのファンドを、どんどん設定するようになったのです。
さらに、1990年代の初頭に「証券不祥事」として多くの証券会社が大口法人顧客との取引に「損失補てん」していたことが白日のもととなり証券規制が強化されるまでは、投資信託がそうした証券会社の自己勘定取引や大口顧客取引で生じた含み損の受け入れ先として悪用されてきたという、今では考えられないほどの黒歴史があるのです。
すなわち大きな損失を抱えて売るに売れなくなった株式を、系列投信運用会社が運用しているファンドを入れ込むという、とんでもない行為のことで、それゆえ一昔前には、投資信託のことを、業界関係者は「ゴミ箱」といっていたものです。その結果、どんなに投資信託の運用で頑張ったとしても、失敗を押し付けられて、なかなか運用成績が上がらないという状態になってしまいました。投資信託が昔から人気が無かったのは、そういう裏事情があったからです。
そういう悲しい過去を知る世代の人たちが今でも「投資信託は怪しい」と思っているのは事実ですが、もちろん現在ではそうした違法行為はありえないことです。そして、最近では、その「投資信託」の購入を後押しするような制度が、次々と作られています。
よく考えてみて下さい。どうして金融庁は、つみたてNISAの投資対象として、投資信託しか認めなかったのかということを。
理由は明確です。普通の生活者が資産形成をしようと思った時、投資信託が適しているからです。
確かに、株式投資やFX(外国為替証拠金取引)、仮想通貨で、大きな財を成した人はいます。「億トレーダー」、「億り人」なんて言葉も、一部ではまことしやかに噂されましたし、実際にそれだけの資産を築いた人を、私も何人か知っています。
でも、その人たちが行ったことを、この社会で普通に働き、家庭生活を営んでいる大勢の人が真似できるでしょうか。
これは「絶対に無理」です。
専業トレーダーは、日中はモニターの前に張り付き、チャートを見ながらひたすら売り買いを繰り返します。数千万円単位の損失が生じることもあります。それでも続けるメンタルの強さを併せ持ち、常に値動きのことを考えています。値動きの激しい世界に身を置いていますから、日々のプレッシャーも相当なものと察します。
そんな状況に、皆さんは耐えられますか?
もし、みなさんが大事な商談の最中に株価が暴落して、一瞬で5000万円もの損失を抱えたりしたら、もう気になって、気になって、商談どころの騒ぎではないでしょう。家に帰ってからも、心は落ち着かないはずです。「あの5000万円があったら、マンションが買えたのに、一瞬で消えてしまった」という後悔の念に駆られ、いつまでもウジウジ悩むはずです。
私も含めて、皆さん、ただの一小市民であることを、ゆめゆめ忘れてはなりません。数千万円単位の損失を抱えても笑って生活できるような、普通では考えられないような、メンタルの強さを持っている人でなければ、株式やFX、仮想通貨のトレードには手を出すべきではないのです。
この点、投資信託はプロのファンドマネジャーが、皆さんからお預かりしたお金をきちんと管理して、リスクをコントロールしながら、世界の経済成長にお金を乗せて育てていくという運用を行います。デイトレーダーのように、超短期売買を繰り返すこともありません。長期的な企業業績見通し、世界経済の成長見通しなど、誰もが納得できる根拠をベースにして、投資していきます。つまりギャンブルではない、きちんとした根拠に基づいた投資を行います。
改めて申し上げますが、投資信託の法規制は、この10年、15年で非常に厳格化されたため、かつてのように、投資信託をゴミ箱にすることなど、絶対に出来なくなりました。透明性も非常に高まっており、投資信託は個人が長期的な資産形成を行ううえで、非常に使い勝手の良いものになっています。
ふつうの人が資産形成をしようと思ったら、投資信託がいちばん適しています。まずは始めてみましょう。
第一につみたてNISA、余裕があればiDeCoも併用
Q-2
お得な制度がいろいろあるようで、何を選べば良いのか分かりません。
長期の資産形成をサポートするための制度は、つみたてNISA以外に、その原型となったNISA、そしてiDeCoという愛称で知られる個人型確定拠出年金と、さらに勤めている会社によっては、企業型確定拠出年金制度がある場合があります。
何をどう使い分ければ良いのか、という点については、特にそれらいずれの制度も活用できるという人にとっては、迷うところだと思います。
優先順位としては、私は、つみたてNISAをお勧めします。
というのも、iDeCoは手厚い税制メリットがある一方、制約もあるからです。たとえば、つみたてNISAなら積み立てている期間中でも、使いたいと思えば希望する金額で解約することができます。もちろん、解約した後で非課税枠を再利用することはできませんが、解約を固く禁じられているわけではありません。
一方で、個人型確定拠出年金や、会社で加入する企業型確定拠出年金は、つみたてNISAと比較して、確かに税制メリットは大きくなります。しかし、iDeCoをはじめとする確定拠出年金は、文字通り「年金制度」です。
年金制度は、国民一人ひとりの老後の福利厚生を目的とした、非常に厳格な制度です。
一度、この制度に加入するということは、積立期間が終わるまで続けることが前提であって途中で、今まで積み立てた額を全部解約して、脱退することは認められないのです。さらに50歳以上でこれを始めた人は、60歳から一定期間経過後にしか受給できないなど注意も必要です。
この点、つみたてNISAは、どうしてもお金が必要になり、預貯金だけでは不足しそうになった時、止むを得ないことではありますが、解約することができます。長期にわたって積み立てていくのが、つみたてNISAの大前提ではありますが、いざという時にも対応できるという自由度の高さは、やはり魅力です。iDeCoほど覚悟を決めなくても、運用収益に対する非課税メリットを享受できるのです。
もちろん、資金的に余裕があれば、iDeCoもぜひ併用して下さい。
ですからまず本当に資金的なゆとりがある方は、確定拠出年金とつみたてNISAを満額で行いましょう。たとえば自営業者が、iDeCoと呼ばれる個人型確定拠出年金に加入する場合、毎月の積立額は最大6万8000円です。これにつみたてNISAで毎月3万3000円を積み立てれば、両方で月10万1000円を、非課税口座で積み立てられます。
もし、これから20年間、両方で満額を積み立てていくと、元本部分だけで2424万円になります。そしてこの額を、年平均5%で運用したら、20年後の元本+収益はいくらになるでしょうか。
なんと、約4116万円(非課税計算)です。基本的に自営業者は国民年金+国民年金基金しか公的年金が得られず、月々の年金額は非常に少ないのが現実です。もっとも、自営業者には定年がないからという考え方も出来ますが、問題は、高齢者になってまで現役と同じペースで働くのは困難だということです。いくら自営業者でも、ある程度の年齢に達したら、引退を考えなければなりません。
その時、この積立は非常に強い味方になってくれるはずです。60歳の段階で、手元に4000万円のキャッシュがあったら、さらにそれを運用しつつ、資産を殖やしていくことによって、安定した老後生活を描くことができるでしょう。
まずは、どんな世代でも購入できて、始める、止めるのハードルが低い「つみたてNISA」をおすすめします。次にiDeCoを検討して下さい。
中野 晴啓
セゾン投信株式会社代表取締役社長