争いが絶えないことから「争族」と揶揄される「相続問題」。当事者にならぬよう、相続対策は万全にしておく必要があります。本連載では、一般社団法人日本相続戦略アドバイザリー協会の代表理事である牛田雅志税理士が実際に目にしたという「争族」のエピソードから、相続トラブル解決のヒントを探っていきます。

仲良し兄妹に母の相続が発生

相続は本人を含む家族の歴史の締めくくりであることから、相続の手続きを進める過程で、他人には理解しがたい家族関係が浮き彫りになることがあります。そのため、デリケートに扱わないと、ささいな食い違いで大きな軋轢が生じることがあります。家族間でさえ気を使う相続に関して、その家族の歴史を知らない第三者が関与するときは特に注意が必要です。

 

今回は、第三者の悪意のない一言が、まとまりかけた遺産分割を崩壊させ、家族を分裂に追いやった悲劇を紹介いたします。なぜ、第三者の一言が家族を崩壊させたのかを紐解くと共に、最適な第三者の立ち振る舞いについて考えていきます。

 

横浜市にお住まいの佐藤さん(仮名)は、両親、兄、本人、妹2人の6人家族でした。

 

商売をしていた父親は早くに亡くなりましたが、母親がその後を継いで4人の子供を育てあげました。兄姉妹の仲はとても良く、それぞれが結婚後も母親を中心に集まり幸せな生活を送っていました。

 

そして、二年前に元気だった母親が老衰で亡くなりました。母親の財産は、兄夫婦と同居していた自宅(評価額5千万円)と金融資産(3千万円)でした。

 

兄は佐藤さんと妹2人を前にこんな提案をしました。

 

「お母さんが遺した自宅だけど、今も私が妻と住んでいるので私が相続したい。そして、残りの金融資産を3人で均等に分けてもらえないかな。もちろん、法定相続分でないことは重々承知しているよ。これはあくまでもお願いだけど聞き入れてくれないかな」

 

佐藤さんは答えました。

 

「お兄さんは大学進学を諦めてお母さんの仕事を手伝ってくれたよね。私達3人はそのおかげもあって大学にも通わせてもらったし、お兄さんにはとても感謝しているわ。私はその分割方法で構わないわ」

 

妹2人も佐藤さんの発言を受け、快諾してくれました。

 

兄は「では、今の内容に沿った遺産分割協議書を作るのでサインしてね」と話をまとめました。

一度は決まった「遺産分割協議」だったが…

後日、佐藤さんのもとに兄から封書が届きました。そこには、母親の遺産分割協議書が入っていて、署名捺印後に返信するようにメモが記されていました。リビングでその遺産分割協議書に署名捺印をするための実印をさがしていると、そばにいた夫がその協議書を取り上げ、佐藤さんに話かけてきました。

 

「お兄さんが相続する自宅の評価額っていくらくらいなの」

 

「え~と5千万円って聞いてるけど」

 

「きみに比べてお兄さんは随分と多いんだね」

 

「もちろんそうだけど、兄は私たち妹にとって父親代わりなの。本当に良く面倒をみてくれたのよ。お金の話じゃないのよ」

 

「ふ~ん。そうなんだ。でもちょっと不平等だよね」

 

「そんなこと、言わないでよ」

 

「ごめんごめん。でもさ、お兄さんとしては、自宅を兄姉妹で分割共有すると売却時など処分する時に困るから自分1人に相続させてと言ってるのじゃないの。それがお兄さんの意図なら、自宅はお兄さんのものにしてもらう代わりに現金で1千万円もらえないかって言ってみたら。あなたには法定相続分で2千万円の権利があるのだよ」

 

「そんなの、今さら言えないわよ」

 

「とりあえずダメ元で言ってみたら? ダメならすぐに引き下がればよいのだから」

 

「それもそうね。言うだけ言ってみようかしら」

 

この何気ない夫婦の会話の後、佐藤さんは兄に電話をしました。

 

「実は、遺産分割協議書のことなのだけど。自宅はお兄さんで問題ないのだけど、できれば妹3人に1千万円ずつ現金をもらえないかな。法定相続分は2千万円分あるらしいし。ダメならよいのよ。とりあえず言ってみただけだから…」

 

それを聞いた兄は、

 

「それってどういうことなんだ。前回の話し合いでもう決まった話だろ。それならそうとその時に要求すればよいじゃないか。なんで今さらお金の話を持ち出すのだ。誰かの入れ知恵なのか。もしかして旦那のアドバイスなのか」

 

「え、そんなに怒らないでよ。ちょっと言っただけじゃない。ダメって言われたら引き下がるつもりだったのに。夫はよかれと思って言ってくれただけで、お兄さんからお金を奪おうと思ってるわけじゃないわよ」

 

「うるさい、お前の性根は分かったよ。あんなに面倒をみてやったのに、恩を仇で返すつもりなのか。もう遺産分割の話は白紙だ。妹たちにも言っとけ」

 

「分かったわよ。そんなに言うなら2千万円分キッチリいただくからね。妹達にも伝えておくわ」

 

「……」

 

無言で電話は切れました。

 

売り言葉に買い言葉ではないですが、少しのボタンの掛け違いが決まりかけた遺産分割協議を反故にし、家族をバラバラにしてしまいました。

 

 まとめ 

では、佐藤さんはどのようにすればよかったのでしょうか。

 

まず、遺産分割というデリケートな内容は正対して話し合う必要があります。電話では、話し合いの場の空気がカジュアルなのかシリアスなのか読み間違えることがあります。佐藤さんが笑顔で兄の面前で冗談っぽく話を持ちかけていれば、兄もそれに応じて切り返したかもしれません。

 

また、遺産分割内容を変更するよう話し合いの場を設けることは問題ありません。何度も納得できるまで話し合いをすることが大切ですが、相続人である家族だけで決めるようにしてください。

 

第三者である婿や嫁は、客観的に物事を把握できるという長所もありますが、相続人の感情や想いまで共有することができないからです。遺産分割はその家庭の事情にあわせて自由に設計して構いません。相続人が納得してさえいれば法律上不平等であってもよいのです。

 

さらに、第三者である婿や嫁は、たとえ配偶者である相続人が、法定相続分よりも少なくなっていたとしてもその決定を尊重することが大切です。可哀想だとか損をしているとか、経済合理性のみから分割内容を判断してはいけません。

 

「争族」の原因の大半は、当事者以外の第三者の入れ知恵によるものです。

 

最適な遺産分割とは、経済合理性の追求が目的ではなく、相続人が分割後も仲良く暮らすことができる幸福な遺産分割を目的にしているからです。

 

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