ベンチャー企業の「4つの成長ステージ」
ベンチャー企業とは、ビジネスに高い成長可能性や革新性、新規性などを具備している企業であると説明しました(第1回)。この「ベンチャー企業」を4つの成長ステージ、「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」にわけて捉えることが多くあります。このうちエンジェル投資家を求めるステージは、一般的に「シード」か「アーリー」です。
シードは、会社のビジネスモデルについて研究開発を始める、または行っているフェーズ、アーリーは研究開発が終わりひとまずの製品が完成していて、これからマーケティングを始めるフェーズです。
つまり、これから研究開発やマーケティングを始めるということは、言い換えれば商品が完成できるかどうかわからない、商品が売れるかどうかわからない、というステージでもあります。そのため、経営者が説明する商品開発スケジュールや販売スケジュールが遅延することはもちろん、何度も方針転換が求められる状況も少なくありません。
事業化の前に力尽きる「死の谷」という現象
このようなステージのベンチャー企業は、実績が乏しいために資金調達が困難である中で、研究開発やマーケティングコストに関する支出は、売上による現金の回収に先立って生じてしまいます。企業の血液ともいうべき資金がどんどんと消費されていき、事業化に至る前に力尽きる会社が少なくないこの状況は「死の谷」と呼ばれます。
ベンチャー企業にとって「死の谷」をどう乗り越えるかは、極めて重要となります。そのためには、いかに事業計画を修正せずに、または追加支出を抑えた修正計画でビジネスの正当性を立証できるかが肝となります。
そこでエンジェル投資家は、ビジネスモデルを最速最短で立証するために、立証までに必要な資金だけでなく、知識、経験、人脈その他のリソースを提供することで、ビジネス拡大を目指し、さらなる資金調達の実行や、取引先、ステークホルダーを求めるミドルステージへベンチャー企業を育てることが役割となります。
資金以外に提供するリソースは「情報・ヒト・モノ」
では、資金以外に提供できる具体的なリソースとはどのようなものでしょうか。それは、「情報」「ヒト」「モノ」です。
「情報」は、これまでの知識や経験が主に挙げられます。ベンチャー企業は革新性、新規性を具備するとはいえ、企業活動のすべてがまったく新しいということはあり得ません。
たとえば商品を開発する手法、市場を理解・開拓する手法、人を採用・教育する手法、社内外のチームをマネジメントする手法、対外的な交渉やビジネスを構築していく手法、資金を調達する手法、企業活動を数値化し評価検証する手法、決算の作成や財務報告をする手法など、活動を細分化すると投資家自身のこれまでの知識や経験が当てはまるところは必ずあり、また若いベンチャー企業が求める要素は多岐に渡るため、マッチすることは少なくありません。
とくに事業計画に関連する部分については、その内容が実際に実現可能性のあるものになっているか、もっと効果的や効率的なものに変更することができないかなどと、アドバイスやディスカッション、プレゼンの壁打ち相手となることで成功確度を高めることに貢献できます。何より経営者は孤独な立場であるため、メンターとして求められる可能性もあります。
続いて「ヒト」は、これまでのビジネスや様々な活動を行ってきた中で構築した人脈が挙げられます。「情報」をエンジェル投資家自身の知識や経験と整理すると、「ヒト」は人脈の中に蓄積されている知識や経験ということであり、投資家自身で不足しているリソースを補う部分です。もちろん、彼らもまた同じようにベンチャー企業における新たなエンジェル投資家になり得るという側面もあります。
このほかの「モノ」は、少し大がかりになりますが、よくあるのは投資用不動産の部屋を無料または割安で提供することなどが挙げられます。不動産コストはベンチャーにとって大きな負担になる固定費のひとつであり、極力下げたい点ですので、少なくともビジネスが確立し、増員を検討するまで提供されるスペースがあると非常に助かります。
お金以外にも様々な支援の形がある「エンジェル投資」
エンジェル投資家を求めるベンチャー企業への投資というものは、一般的な株式や不動産への投資とは異なり、お金だけでなく様々な支援の形があり、自分が手間暇をかければかけるほど愛着が湧くものであると思います。
経営者やボードメンバー、ビジネスモデルや想定されるマーケットサイズなど、よい投資先を見極める目利きはもちろん必要ですが、それに加え、エンジェル投資家による支援の質と量もまた、ベンチャー企業の成功のカギと言えると筆者は信じています。
朝倉 厳太郎
公認会計士
合同会社gtra and company 代表執行役
KidsDiary株式会社 取締役CFO
株式会社M&Aクラウド 監査役