今回は、エンジェル投資家が選ぶべきベンチャー企業の条件等を見ていきます。※投資家に多くの夢を与える「ベンチャー投資」。しかし、その投資対象は甘く見ても玉石混交であり、情報の見極めにはかなりの眼力が必要です。ここでは、エンジェル投資家を目指す人が身につけるべき基礎知識を伝授するととともに、これからますます活性化するであろうベンチャー投資の醍醐味をお伝えしていきます。

しっかりとした「成長戦略」の裏打ちがあるか

前回の記事、『エンジェル投資家が「ベンチャー」に資金を出す真の狙いとは?』ではベンチャー企業がエンジェル投資を受け入れる理由について触れました。今回は、エンジェル投資家を求め、そして選ばれるベンチャー企業について、もう少し深堀りしたいと思います。

 

色々な切り口はありますが、筆者がベンチャー企業を最初に判断するときの軸のひとつに、今後考えている事業計画に関連するビジネスを、過去どれくらい実行してきたのかというものがあります。言い換えれば「成長戦略についてアイディアしかないのか」「アイディアだけでなく、その根拠となる活動実績があるのか」という軸です。

 

エンジェル投資家を求めるベンチャー企業の成長ステージは、アイディアしか持ち合わせていない「若いレベル」であるケースがほとんどです。アイディアだけではなく活動実績がある企業の場合は、得意先や仕入先、銀行その他との取引関係から、すでに資金等の調達が可能な状況にあるケースも少なくありません。そのため、相対的にエンジェル投資家を求めない企業も多くなっています。

 

しかし、経営者の想定する未来の市場規模や事業計画に納得ができ、「彼らなら成長戦略を最後まで実行できるだろう」と思える経営者やボードメンバーが揃っている企業、つまり、経営者たちがビジネスに情熱を持ち、目標達成への強い意気込みを持っている企業なら、投資対象として十分検討に値すると言えるでしょう。

エンジェル投資のほぼ唯一の審査は「信用」

ベンチャー企業の資金調達方法は、インターネットや法律等の環境整備により多様化してきました。そのうちのひとつにクラウドファンディングがあり、投資家として未上場企業を支援する方法でもあります。

 

クラウドファンディング自体が多様化しており、企業から見たときの活用方法は異なるのですが、ここでは投資型クラウドファンディングを用いて、エンジェル投資との違いを説明しましょう。

 

 

まずは共通項ですが、未上場の株式や新株予約権であるため、上場企業のように市場で簡単に売却することはできず、定款の定めにより譲渡制限が付されている都合から、相対だとしても売却は困難になっています。すなわち、EXITの機会はIPOまたはM&Aのときまで難しくなります。次に、出資であるため、会社清算をするときには銀行のような貸付より順番が劣後し、回収が難しくなります。

 

ポジティヴな話では、エンジェル税制の適用を受けられる可能性があります。こちらは個人の所得税を減額する効果があるため、累進課税である所得税の税率が高い方は大きなメリットになります。

 

ここから相違点ですが、ファンドを通しているかどうかがいちばんの違いです。クラウドファンディングはファンドを経由して投資をする一方、エンジェル投資は直接企業に投資をするため、いくつかの相違が生まれます。

 

まず、クラウドファンディングはファンドの審査をパスして実施されているため、総調達額の20%前後が手数料として発生しますが、BSやPL、ビジネスモデルについてファンドにおける一定の水準の審査をパスしているため、投資家として相対的に安心感を持てるでしょう。ただし、日本では金融商品取引法により投資について制限が設けられているため、現在のクラウドファンディングでは1社に対して年間で50万円までの投資しか現実的にできません。

 

一方エンジェル投資は、調達手数料はないものの、その企業の紹介元などの信用がほぼ唯一の審査と言えます。そして出資制限は現実的なラインでは存在しませんので、出したい金額を投資できます。

 

そして何よりの違いは、投資先のベンチャー企業との関係です。クラウドファンディングは上場企業株式投資と同じで、ファンドを介しているため、企業情報を確認して投資した後は年次報告などを読んで近況を知るだけの関係が通常です。

 

一方、エンジェル投資はベンチャー企業の経営者やボードメンバーはもちろんのこと、双方が求めればそれ以外の社員とも活発なコミュニケーションが生まれます。お金だけでなく色々なものを提供することで、その企業への愛着などが高まり、育てる・ともに戦うという気持ちが生まれ、EXITを達成できたときの喜びはまったく異なることでしょう。

投資額は100万円程度からと、決して安くはないが…

ベンチャー企業のリスクの高さと、支援から得られる喜び。これらを経験できるのは、限られた投資家だけなのでしょうか? 筆者はそうではないと確信しています。エンジェル投資を求める企業は数百万から1億円程度の調達を求めるケースがほとんどです。1単位は100万円程度からと決して安くはありませんが、ポートフォリオとして組み込むことができる方は少なくないと思います。

 

 

そして金額はもちろんですが、ベンチャー企業は色々なビジネスでチャレンジしており、人脈も、知識も、経験も、情報も、様々なリソースを求めています。つまり、投資家の方々がこれまでされてきたビジネス等で得られたものが、ベンチャー企業で生きる可能性は非常に高いのです。ベンチャー企業が求めるリソースについては、次回の記事で具体的に説明したいと思います。

 

 

朝倉 厳太郎
公認会計士
合同会社gtra and company 代表執行役
KidsDiary株式会社 取締役CFO
株式会社M&Aクラウド 監査役
 

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