遺言は裁判所で「検認手続き」を行う必要がある
遺言はシンガポールの裁判所で検認手続き(遺言執行者の選任手続き)を行う必要がありますから、シンガポールの裁判所で「有効な」遺言であると認められるものであることが必要です。
シンガポールは、遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約を批准していませんので、シンガポールで有効な遺言とは、シンガポールの遺言法(Wills Act)により有効と認められる遺言であることが必要であり、同法によると、
①遺言の作成地の法律
②遺言作成時もしくは死亡時における遺言者の住所地の法律
③遺言作成時もしくは死亡時における遺言者の常居地の法律
④遺言作成時もしくは死亡時における遺言者の国籍国
以上いずれかに従って作成された遺言については、適法に作成された遺言として取り扱うことを定めています。
従って、日本に居住している日本人がシンガポールの不動産に関する遺言を日本法の方式に従って作成している場合、かかる遺言はシンガポールの裁判所も有効な遺言であるとして取り扱うことになります。
もっとも、実務的には、日本法に従って日本語で作成された遺言をシンガポールの裁判所に提出するにあたっては、遺言の英訳を作成する必要があるとともに、その遺言が日本法に従って作成されていることの証明を裁判所から求められることも考えられますので、シンガポールの資産については日本国内の資産に関する遺言とは分離して、シンガポールの方式で作成することが望ましいといえます。
さらに、検認手続きを行うに際してはシンガポールの弁護士に依頼して行うことが現実的ですので、遺言の作成についてはシンガポールの弁護士と相談することをお勧めします。
シンガポールに「相続税」はないが・・・
シンガポールには相続税はありません。しかしながら、相続人が日本に住んでいる場合には、当該相続人は日本で海外資産を含む相続税を支払う必要があります。
また、不動産を売却したときに生じる譲渡益に対してもシンガポールでは課税はされません。しかしながら、シンガポールの資産を取得した相続人が日本国内に住んでいる場合、その相続人はシンガポールの不動産を売却したときにキャピタル・ゲインがある場合、その部分に課税がなされることになります。
現時点における国税庁の取り扱いでは、課税標準としては、売却時の価格から被相続人が当該不動産を購入したときの金額及び諸経費を引いた残りのキャピタル・ゲイン全額に対して課税がなされることとされています。
もっとも、この点については現在裁判となっている事案があり、この裁判では、既に相続税として、相続開始時の価値については納税を行っていることから、この部分は二重課税に当たるのではないかとして争いとなっています。
連載第5回で述べましたように、シンガポールの不動産を売却した場合、取得してから4年以内に不動産を譲渡した場合には、不動産の売主も印紙税を支払う必要があります。従って、被相続人が不動産を取得してから、相続が発生し、不動産を取得した相続人がその不動産を売却する前に4年が経過していない場合には、その相続人が印紙税を支払う必要があります。
一般的に、キャピタル・ゲイン部分に外国において所得税を支払っている場合には、日本において所得税を計算する場合において外国にて支払った税金を控除することができます(いわゆる外国税額控除)が、控除できる外国税額は同様の税目であることが必要であるとの判例がありますので、この場合、払った印紙税額は外国税額控除として利用できない可能性があることに注意してください。