「保険」は金融機関にとって手数料稼ぎの道具
日本人は保険好きだとよくいわれます。
実際に、かけ金の高い生命保険や複数の医療保険に若い頃から加入していたりといったことがよくあります。
ただ、考えてみれば当然のことですが、支払った保険料以上の保険金が支払われるということは滅多にありません。
とはいえ、万一に備えておかなければ不安だと思われるかもしれません。しかし、保険は非常に手数料の高い商品であるため、加入するにしても厳選して必要最低限とすることが望ましいのです。
例えば、人気の医療保険では、保険の販売代理店の受け取る手数料が、初年度では保険料の約30%、次年度から数年間は10%程度に設定されています。大手の生命保険(死亡保険)では、60%超が経費に回るものもあります。さらにそこから、保険会社の利益などが差し引かれるわけです。
ですから、保険の手数料は前述した投資信託などが可愛く見えるほど高いものです。
それだけに、銀行や郵便局などの金融機関は、保険の販売にも非常に力を入れています。その一端を、2018年4月にNHKの『クローズアップ現代』で放送された、郵便局による保険の〝不適正〟営業の実態から垣間見ることができます。
それによると、高齢者を狙って、保険を預金と誤認させたり、親族が同席しないように誘導したり、短期解約させてその払戻金で新たな保険に加入させたりといったことが行われているのです。
また、郵便局員には厳しい営業目標が課せられており、その目標が未達だと恫喝・懲罰研修を受けさせられるというのです。こうなってくると、もはや〝不適正〟営業どころか、組織ぐるみの〝詐欺的〟営業だといえます。
つまり、保険に関しても、投資信託と同様に、金融機関にとっては手数料稼ぎの道具に過ぎないのです。
ですから、保険にはなるべく加入しないようにするに越したことはありません。まして、これも投資信託と同様ですが、金融機関で保険について相談するなんてもってのほかです。
医療保険に入るよりも「就業不能保険」の検討を
それでは、保険については、具体的にどのように考えればいいのでしょうか。
ここでは保険の中でも代表的なものである、医療保険と生命保険の二つについて見ていきたいと思います。
●医療保険
まずは、医療保険の方からです。医療保険とは、病気やケガの治療費を軽減してくれる存在といえますが、医療保険は次の二つに大きく分けることができます。それは、強制加入の公的医療保険(健康保険など)と民間の医療保険の二つです。
日本は、国民皆保険制度であり、手厚い公的医療保険があるため、あくまでも民間の医療保険は公的医療保険の補完的なものとなります。また、民間の医療保険は基本的に、病気やケガで入院した場合の費用を保証するもの となっています。
しかし、仮に入院して医療費が高額なものになったとしても、公的医療保険には高額療養費制度というものがあり、自己負担額の上限が定められているのです。ですから、ある程度の貯金があれば、医療費で首が回らなくなるといったことは日本ではほとんど考えられません。
一方、これはあまり公言していいことではないかもしれませんが、医療保険への加入を検討してみてもよいかと思われる場合もあります。
それは、遺伝性の高い大腸癌や乳癌などの家系の人です。あるいは、まだそれほど一般的ではありませんが、遺伝子検査によりそういった疾患のリスクが高いことが分かった場合などです。
今のところ倫理的な問題などから、医療保険加入に際して、遺伝子検査情報の告知義務はありません。もちろん、今後遺伝子検査が一般的になるにつれて、どうなるかは分かりませんが。ただ、そういった特殊な場合を除けば、医療保険に関してはほとんど加入する必要のないものだと捉えて差し支えないでしょう。
そして、仮に病気やケガで仕事に復帰できない状態が長く続いてしまった場合、民間の医療保険でカバーされる入院費などよりも気になるのが、療養中に収入が途絶えてしまうことだと思われます。
会社員や公務員の方であれば、病気やケガの療養のために休職となった場合でも、健康保険から傷病手当金が支払われます。
この傷病手当金というのは、一般に給料の約3分の2に相当する額が最長1年半にわたって支給されるというものです。一方、自営業者などの加入する健康保険では、傷病手当金をもらうことはできません。そういったことから、特に自営業者の方で検討に値するといえるのが、就業不能保険になります。
もちろん、会社員や公務員の方でも、傷病手当金が出るとはいっても収入が減ってしまうことには変わりありません。また、傷病手当金が支払われる期間以上に療養が必要な場合や、病気やケガのために退職を余儀なくされてしまう場合もあり得ます。そのため、会社員や公務員の方でも、この就業不能保険を検討してみる価値はあります。
一般に、就業不能保険では、給付金を月額20万円や30万円などと設定したり、保険期間を60歳までや65歳までなどと設定することができます。当然ですが、この保障内容からも分かるように、保障が手厚い分だけ保険料も高くなってしまいますので、積極的に加入を勧めるわけではありません。
つまり、医療保険に加入するくらいであれば、就業不能保険への加入を検討した方がよいのではないかといった程度だということです。
「かけ捨て型」の生命保険は、本当に損なのか?
続いて、生命保険についてです。
生命保険という言葉は、実は幅広い保険を含む総称なのですが、一般的には死亡保険という狭い意味で使われることが多く、ここでも死亡保険として話を進めていきます。
死亡保険についても多くの種類がありますが、大きくは定期保険、終身保険、養老保 険の三つに分類することができます。まずは、この三つについてそれぞれ簡単に説明していきたいと思います。
①定期保険
定期保険は、10年間や20年間などといった一定の保険期間内に死亡した時のみ死亡保険金が支払われるものです。保険料はかけ捨てで、終身保険や養老保険とは異なり、保険を解約した際に戻ってくるお金である解約返戻金もありません。ただその分だけ、安い保険料で大きな保障を得ることができます。
②終身保険
その名の通り、死亡保障が一生涯続くもので、定期保険や養老保険と違って満期はありません。ただ、当然どこかの時点では、必ず死亡保険金が支払われることになります。死亡時ではなく、どこかの時点でと書いたのは、リビング・ニーズ特約というものが付いている場合があるためです。
このリビング・ニーズ特約というのは、余命6カ月以内と診断された場合に、死亡保険金を生存中に受け取ることができるというものです。そして、定期保険のようにかけ捨てではないため、貯蓄性もあるとされます。
また、保険料を支払う年数が長期化するほど、解約返戻金の返戻率が上昇し、解約返戻金が支払った保険料の合計額を上回ってくる場合もあります。なお、この点に関しては、次の養老保険も同様です。
③養老保険
養老保険には、定期保険と同様に20年間や60歳までなどといった満期があります。そして、養老保険の最大の特長が、定期保険や終身保険と違って、満期保険金があるということです。
これは、満期までに死亡した場合に死亡保険金が支払われるのは当然ですが、死亡せずに満期を迎えた場合にも、死亡保険金と同額の満期保険金が受け取れるということです。ただ、この満期保険金がある分だけ、定期保険や終身保険よりも保険料は割高となります。
ここまで、簡単にではありますが、代表的な生命保険(死亡保険)について見てきました。では、生命保険に関しては、どのように考えればいいのでしょうか。
そもそも、生命保険に限りませんが、保険へ加入する目的というのは、緊急に大きなお金が必要となるような事態に備えることです。そう考えると、生命保険へ加入することが望ましいのは、例えば幼い子供がいて、なおかつ十分な貯蓄がまだできていないといったような世帯になります。
そのような世帯で、仮に世帯主が急逝してしまった場合には、残された遺族に大きな経済的負担がのしかかってくるためです。
この場合、申請すれば国から遺族年金は支払われますが、これだけでは決して十分とはいえません。ですから、こういった場合には、生命保険への加入を検討すべきだといえますが、それでも加入するのは定期保険だけで十分でしょう。
例えば、子供が成人するまでと考えて、保険期間が20年の定期保険に加入しておき、期間満了までにある程度まとまった金額を貯蓄しておくことができれば、その後は他の生命保険に入る必要性は低いと考えられるからです。
定期保険のようなかけ捨ては損だという人がいますが、かけ捨てだからこそ保険料が安く済むのだということを忘れてはいけません。そして、定期保険に加入するに当たっては、インターネットで比較してみることをお勧めします。
一般的には、インターネットで申し込めるネット生保の方が、対面型の生保で必要となってくる多くの営業マンの人件費などといった営業活動費を削減できる分、保険料が割安であるといわれます。
しかし実際には、ネット生保の保険料が最も安いとは限らないケースがあったりするので、色々と比較してみるに越したことはないでしょう。また、ネット生保では手続きの際に、自分で説明を読んで理解し、判断するという手間もかかります。
ただ、だからといって金融機関や保険代理店の窓口で相談してしまうと、別の商品や余計な商品を勧められたりする可能性があるので、やはりネット生保で申し込むのが無難だと思われます。
保険会社の「資産運用」は優れているといえるのか?
ここでは最後に、保険で貯蓄や資産運用ができるのかということについて簡単に触れておきたいと思います。
「保険が貯蓄代わりになる」「保険で資産運用ができる」というのは、保険の営業マンやネット広告の宣伝文句および常套句となっています。
例えば、解約返戻金が30年後には、支払った保険料の総額の110%や120%になるといった説明をされると、保険で貯蓄や資産運用ができるというのは、一見その通りだと思えます。こうしたことが可能なのは、保険会社が保険料を国債や社債、株式などで運用しているためです。
しかし、このように長期でお金を運用する際には、必ずそれと同期間のリスクフリーレートで比較検討してみる必要があります。リスクフリーレートというのは、無リスク金利とも呼ばれ、無リスク資産とされる国債などの利回りのことをいいます。
例えば、前述した30年間という期間では、リスクフリーレートとして30年国債の利回りを見るわけです。そこで、直近の30年日本国債の利回りを見ると、約0.7%となっています。つまり、単純に30年国債を保有しているだけでも、単利で21%、複利だと23%強の利回りが得られることになります。
ここに、海外債券や社債、株式などを運用対象へと加えれば、さらに高い運用利回りが期待できます。ですから、決して保険会社による運用が優れたものであるというわけではないのです。他にも保険には、インフレによって資産が実質的に目減りしてしまうリスクや、金利上昇リスクなどもあります。
こういったことから、保険の役割として「保障」と「貯蓄や資産運用」とは切り分けて考えることが望ましいのです。
そもそも、莫大な宣伝広告費、営業活動費などを賄う必要のある保険会社が、有利な運用をできると考えることの方が不自然だといえます。
また、確かに法人では生命保険が節税や資金繰りの手段として有用な場合も多々ありますが、個人では活用の手段も限られています。
ここまで書いてきたことを踏まえて、加入する保険というのは必要最低限に止めていただければ幸いです。
小林 武文
精神科医・投資コンサルタント