仕事と子育ての両立を考えるなか、ストレスに感じやすい「離乳食作り」。時間が足りない、食べてくれない、栄養バランスは…色々考えてイライラと不安でいっぱいになっている方も多いのではないでしょうか。本連載は、小児科医であり2児の母でもある、工藤紀子氏の著書『小児科医のママが教える 離乳食は作らなくてもいいんです。』(時事通信社)のなかから一部を抜粋し、市販の離乳食を活用しながら育児を楽しむ方法を紹介します。今回も実際に離乳食作りで大変な思いをした母親たちの事例とともに、筆者の工藤氏も経験した子育ての苦労を見ていきましょう。

「ママ」はやめられないが、離乳食作りはやめていい?

お悩み事例④ 離乳食作りはこんなに大変!

 

子どもは放置されて泣き叫び、母子ともに、もうこんなのたえられない!

 

 

生後半年くらいからの約1年間は、子どもが人見知りをしてぐずりやすい時期です。ママがそばにいないと泣きだし、ハイハイや立っちのできる子はママの後追いをすることもあります。

 

ところが、ママは離乳食を作るために子どものそばを離れないとならないので、子どもは泣きだします。ママのほうでも、慣れない離乳食作りをするには本や雑誌、ケータイ片手に、必死です。

 

すりつぶす? 網でこす? すり鉢でする? きざんで細かくする? 

 

一つひとつがはじめてのことばかりなので余裕がありません。

 

子どもからしたら、ママの意識が別のほうに向くのでおもしろくありません。なんとか気持ちを自分に向けようとします。そして、ギャン泣きの子を前にママの気持ちはいよいよ焦せり、イライラします。

 

「いま作ってるんだから! 待ってて!」

 

つい大声をあげてしまうと、子どもはさらに泣き叫び、よろよろとつかまり立ちをしたとたん、頭をゴチン!

 

うわあああああああああ!

 

ママは急いで抱きかかえようとして、台所の食材をひっくり返します。もう、それは修羅場ですよ。ギャン泣きする子どもをかかえたママのほうこそ泣きたいです。

 

子どもが転んで頭をぶつけたくらいなら、まだよいのです。でも、それまでは上れなかったはずのソファに上って落ちたり、洋服ダンスの引き出しを開けて、そこを階段にして上ってつまずいたり、カーテンを結わえるひもに首が引っかかったりして、そこから思わぬ事故につながることもあります。

 

子どものためを想って作っている離乳食なのに、子どもの安全が脅(おびや)かされるようでは本末転倒です。子どもは日々成長します。昨日までできなかったことが、今日はスイスイできるようになっている、ということがあるのです。昨日までだいじょうぶだったから、今日もだいじょうぶというわけではありません。

 

また、慣れないことに夢中になると、つい少しだけ目を離したつもりが、意外と時間が経っていたりもするのです。

 

お悩み事例⑤ 離乳食作りはこんなに大変!

 

こんなにつらいのに、やめられないのってつらすぎる!

 

じゃあ、そんなにつらいならやめたらいいじゃない? それが育児ではなく仕事ならば、もう本当に疲れた、このままではやっていけないと思ったときは、「やめる」という選択肢があります。ところが、離乳食は基本的に作るものだと思っているママたちにとって、離乳食作りをやめられるかというと、答えは、「ノー」です。

 

ママたちの頭のなかでは、「離乳食を作らない→子どもが食べられない→子どもが生きていけない→母親失格(ママであることをやめること)」となっていますから、どんなにつらくても、どんなに苦しくても、どんなに逃げたくても、子どもを育てるために、子どもを生かすために、母親なんだから離乳食を作らなければならない、立ち向かわないといけない義務だと思い込んでいるのです。

 

しかし、離乳食は絶対に作らなくてはいけないというわけではありません。

 

栄養満点の離乳食がたくさん売られています。離乳食を買うことによって、ママたちを苦しめる呪縛から逃がれることができるのです!

 

小児科の私も同じ…「離乳食作り」に悩む母親だった

思わず子どもに手をあげてしまったのは離乳食の時期だった

 

「あなたは小児科のお医者さんだから、育児になんの心配もないでしょう?」とよく言われますが、全然そんなことありません。

 

私も多くのお母さんと同じように、はじめて離乳食に取り組んだときは悩み苦しみました。「毎日きちんと栄養満点の離乳食を作って食べさせなければいけない」という常識にとらわれ責任感にかられ、思うようにいかないことがあるたびに、それはそれはイライラしていたのです。

 

ある日のことです。娘はいつものように離乳食を投げたり、つぶしたり、吐きだしたりして、娘自身も服もひどく汚れてしまいました。もうこれはお風呂に入れて洗うしかない、と服を脱がそうとしても、ぐずってばかり。服の間から食べ物がボロボロとこぼれ、あたりに散らかります。

 

あんなに一生懸命作ったのに、全然食べない! 掃除も片付けも増えて本当に大変!

 

突然プチーンと私の中で何かが切れて、「いったい何がいやなのよ!?」と叫び、ぱちーーーーん!と娘のお尻を叩いてしまいました。

 

「うわああああああーん!!」

 

 

お風呂場に広がる娘の泣き声。しかし私は泣き叫ぶ娘を抱きしめるわけでもなく、お風呂場の鏡に映る小さなお尻に残った赤い手の跡あとと、ボサボサ頭ですっぴんの情けない自分の姿をぼーっと眺め、「いったい何が起こったんだ」としばし呆然としていました。

 

何分か経ち、このままではいけないと気づいた私は、罪悪感と情けない気持ちでいっぱいになり、「ごめんね。ごめんね」とホロホロ泣きながら、やはり泣き叫び続けている娘をやっと抱きしめました。

 

私は子どもを授かる前は、虐待なんて絶対してはいけない、ありえないと思っていました。子どもを叩くなんて親失格だと思っていました。

 

しかし叩いてしまったのです。まさか自分にこんなことが起こるなんて! 言葉の理解もままならない愛すべきわが子に声を荒立てて怒るなんて! なんてことでしょう。

 

あのときのつらく苦しい気持ちは、今もありありとよみがえってきます。相当疲弊していたんだと思います。でもあんな思いは誰にもしてほしくない。

 

子どもは泣きます。

 

でも本当に泣きたいのはママたちなのです。

 

子育て中に感じる大きなストレスは、周りからすれば「母親なんだからやって当たり前」と認識されます。

 

そして当然、「母親である自分はがまんしてもやるべきだ」となるのです。

 

私は実際に子どもを持ってはじめて、世のなかのお母さんたちが子育てにいかに大きな労力を払っているかを実感しました。

 

ところがアメリカで二人目の子を産んでから、私の離乳食への「常識」は大きく変わります。 

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録