原価率が高めな飲食店…税務署はどこをチェックするか
飲食店の経営者ならば店舗の2大経費(FLコスト)については、普段会計事務所から送られる試算表などに興味がない方でも、「先月までのお店の原価はいくらくらいだろうか」とさすがに気になるのではないでしょうか。
今回はそんな2大コストのうちの原価が業界平均より高くなっている店舗(業界平均の原価率が30%にもかかわらず、50%も原価率が計上されている場合など)を考えながら、その時の税務調査の観点及び経営者が店舗管理上注意すべき点を述べていきます。
● 業界平均より高い原価率の飲食店において、注意すべきこと
税務署は数多くのデータを保有しております。
そして、その膨大なデータから業界ごとの平均的な原価率などは十分に把握しております。ですので、やたらと平均より原価率が高い飲食店があった場合は当然調査官の目につきます。
ではそのような場合、調査官はどのようなことを考えるでしょうか。
原価率の計算式は原価÷売上高ですので、以下の2つの視点で調査を行います。
①原価が多く計上されているのではないだろうか
②売上が少なく計上されているのではないだろうか
①の場合
原価自体の計算式は、「1月1日の在庫+1年間の仕入-12月31日の在庫=原価」となります(例 1月1日の在庫150+1年間の仕入850-12月31日の在庫100 であれば、900が原価になります)。
そこで、原価を増やすには「1年間の仕入」を増やせばいいことになります。
よくある方法としては、翌期の仕入を無理やり当期に前倒しで計上している可能性を考慮します。この場合、領収書や請求書などを調査して、翌期の仕入が当期に混じっていないか確認します。
また、「12月31日の在庫」が多くなればなるほど、原価が小さくなることもわかります(先ほどの例でいえば、12月31日の在庫が200であれば、150+850-200=800が原価となります)。
そのため、年末の棚卸の際に一部の材料をわざと2重カウントして架空の在庫が計上されているのではないかと棚卸表をチェックします。
②の場合
売上を少なくする方法としては、代金をレジを通さずにポケットに入れてしまう方法が現金商売の飲食店では真っ先に疑われます。
その場合は、第2回(関連記事『覆面調査官の来店も!? 飲食店の税務調査はどう行われる?』参照)で説明したような、覆面調査を行った上での突然の税務調査というような流れになります。
売上代金を抜くなど、どこかで不正を行えば、他の指標でその兆候が顕れてしまうということです。
従業員の不正…被害者でも税務署からさらに追い打ち?
皆様の店舗では仕入れの担当はどなたでしょうか?
持ち場の板前さんやシェフなどが仕入れを担当している店舗もあるのではないでしょうか。
そのような場合は、あまり考えたくはないですが、従業員の方の不正によって原価率が異常に高くなっている場合もあります。
その不正の方法は本来の仕入値より余分に高く仕入れをして、その余分に払った金額を仕入れ業者の方から受け取る方法です(本来は1,000で仕入れることができる材料を1,200で仕入れます。余分に払った200分を仕入業者とグルになって100ずつ分けて自分たちのポケットに入れる不正)。
このような従業員に不正をされて、被害者の立場になれば、悲しくなってしまいます。しかし、さらに追い打ちで税務調査で指摘されることがあります。
個々の状況により異なるのですが、端的に言いますと余分に払っていた分の200が経費として認められなくなってしまい、その結果として利益が増えて追加でその分の税金を払わないといけなくなることもあります。
このような不正と追加の税金を防ぐにはどうすればよかったのでしょうか。やはり、経営の基本の話になるのですが、PDCAサイクルを回すことになるのではないでしょうか。
具体的には、毎月の会計事務所から送付されてくる試算表を良く眺め(C)、いつもより原価が増えていることに気づいたらその原因を分析(A)。分析した結果に基づいて対策を考え(P)、対策を実行する(D)という方法を繰り返していけば、不正の兆候に気づくことができるかと思います。
田港 大輔
税理士