条件を満たさない「まかない」は給与課税の対象に
昨今の飲食業界は深刻な人手不足に陥っています。なかには人手不足で営業できず、閉店にまで追い込まれてしまったケースも耳にします。そのような状況で、各飲食店は人員を確保するための様々な手法を講じています。
なかでも一般的な手法なのが「まかない付き」という福利厚生です。従業員側からしてみると、「まかない」は一食分を安く済ませることができるため、非常に魅力的な制度となっています。一方、飲食店側も「まかない」の提供で材料費のロスが防げるため、双方にメリットがあります。
そんな「まかない」は魅力的な制度のため、ぜひ続けていただきたいのですが、制度を続けるにあたり、税務上の注意点があります。
飲食店の税務調査では、この「まかない」の処理が適切になされているかを必ずといっていいほどチェックされます。
では、のどのような点に注意すればよいのでしょうか。
結論としては、「まかない」が給与として課税されないように注意することが必要です。
給与として課税されるかどうかの指針は、国税庁のホームページにある『タックスアンサー(「No.2594 食事を支給したとき」https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2594.htm)』に記載されています。
上記の国税庁のホームページを要約すると以下のようになります。
<役員や従業員などへの「まかない」は、次の二つの要件をどちらも満たさなければ、給与として課税される。
(1)役員や従業員などの本人が食事の価額の半分以上を負担していること。
(2)(食事の価額)-(役員や使用人などの本人が負担している金額)を計算した金額が1ヵ月当たり3,500円(税抜き)以下であること。>
ちなみに、ここでいう(2)の計算式の食事の価格とは、仕出し弁当などを取り寄せて支給している場合にはその業者に支払う価格、飲食店で作った食事を支給する場合にはその食事を作るのに掛かった材料原価の金額になります。
気をつけなくてはならないのは、上記のどちらも満たしている必要があるという点です。そのため、下記の例のような場合には要件を満たさないことになってしまいます。
<例>1ヵ月当たりの食事の価額が5,000円で、役員や従業員などの本人が負担している金額が2,000円の場合
①本人の負担額(2,000円)÷食事の価格(5,000円)=40%
②食事の価格(5,000円)-本人の負担額(2,000円)=3,000円
計算の結果を確認すると、②の計算は3,500円以下になっているので要件を満たしていますが、①の計算は50%以下になってしまっているので、要件を満たしていません。
繰り返しますが、給与課税されないためには両方の要件を満たす必要があるので、この例の場合は残念ながら、食事の価額の5,000円と役員や使用人の負担している金額の2,000円との差額の3,000円が給与として課税されてしまいます。
上記以外に給与として課税されない基準もあります。その基準は以下のとおりです。
●深夜勤務の従業員に1食当たり300円未満の金額を支給する場合には給与として課税されない。
●残業・宿直・日直など通常の勤務時間以外に勤務する場合には、無料でまかないを支給しても給与として課税されない。
上記の給与として認定される以外にも、「自家消費」として売上計上することを失念しないように気をつけなければなりません。
「自家消費」の売上の計上漏れに注意!
最近の税務調査は、1件あたりの税務調査の日数が減少しています。そんななか、調査官が売上の計上漏れを発見するのは大変な労力を要するようです。
しかし、税務調査官が簡単に売上の計上漏れを指摘する方法があります。その方法は、「自家消費」として売上を計上していない点を指摘することです。
なぜ、自家消費を売上として計上しなければいけないのか。それは仕入れた材料を経費として計上したにもかかわらず、売上を「0円」のままにしておくと利益(所得)が減少し、結果として税金の金額が圧縮できてしまうからです。
そのため、「自分たちでまかないとして消費してもよいが、消費した以上は売上として計上しなさい」というルールになっています。
ちなみに、売上として計上する金額は「材料の仕入価格」と「商品の金額の70%」のいずれか大きいほうというルールです。(原価率が平均30%の飲食業界を考慮すると、「商品の金額の70%」が適用されるケースが多いように思われます)。
<結論>
「まかない」は魅力的な制度ですが、税務上のリスクもあります。従業員から適正な金額を徴収する必要がある点、売上としての計上漏れに気をつける必要がある点をしっかりと確認ください。
田港 大輔
税理士