今回は、飲食店における税務調査の流れを見ていきます。※本連載では、飲食店専門の税理士事務所を経営するとともに、自らも調理師として料亭経営に携る田港大輔税理士が、飲食店経営にあたっての税務上の留意点を解説していきます。

現金決済で疑われるのはやはり「売上の誤魔化し」

最近の大手飲食店では、クレジットカード決済や電子マネー決済が当たり前になっています。クレジットカードや電子マネーの決済を取り入れている場合、ある程度日数が経過した後に売上代金が入金されます。カード決済された売上は必ずレジを通すことになりますので、税務署はそこに不正はないであろうと考えます。

 

一方、個人店などでは、まだ現金決済のみ対応としているお店のほうが多数派だと思われますが、現金決済の場合は、会計にレジスターを使用してお客にレシートを発行しますので、当然そのレジスターに記録が残ります。一日の最後の締め作業として、売上の集計をジャーナルとして保存し、そのジャーナルを売上の証票として保管するのが一般的です。万一、このような集計を行っているお店がジャーナルを捨てたとなれば、売上の誤魔化しが疑われます。

 

しかし、なかには売上をレジに通さず、抜いてしまうお店があるかもしれない・・・と、税務調査官は考えています。受け取った現金をレジに通さず、そのままポケットに入れる行為、つまり「売上の抜き取り」です。

店外のチェック、アポなし訪問…抜かりない調査官

以下、飲食店における税務調査の流れを紹介します。

 

①店外調査・・・店の立地や駐車場収容台数、客の出入り状況等を調査官が確認

 

実際の税務調査の前に、店舗の立地や駐車場の収容台数、また、お客様の出入りの状況を確認します。これは、実際に調査に入った時にお店側の説明を鵜吞みにしないよう、調査官自身がある程度お店に対する認識を深めるためです。

 

②店内覆面調査・・・調査官がお客として来店

 

実際に税務調査官がお客に扮装し、店内を調査しに来ます。ちなみに、調査官はお店のレジ周辺に座ることを希望するそうです。理由は、お店の会計の仕方を確認するほか、レジ担当が経営者なのか、それともアルバイトなのかを調査するためです。店を出るときには、レシートもしっかり受け取って帰ります。自分が食事した金額がジャーナルにきちんと入力されているか、後で確認するためです。

 

③無通知での税務調査・・・調査官のアポなし訪問

 

税務調査官が突然来訪することもあります。なぜなら、売上の抜き取りを確認するには無通知で調査するしかなく、また、事前に通知すればお店側に対策を取られてしまうからです。

 

無通知で来た税務調査官は、もちろんレジ周辺の状況を確認します。確認は、税務調査日のレジの中にある現金(「営業前のつり銭」+「当日の売上金」-「当日の業者などへの現金支払い額」)が、ジャーナルの売上金額と一致しているかチェックすることで行われます。いわゆる「現金実査」というものです。

 

現金実査を終えた後は、過去の売上のチェックを行います。こちらは保管されていたジャーナル伝票を見て、ジャーナルの金額と帳簿に記載されている金額が一致しているかを確認します。

もしも「売上の抜き取り」が発覚したら

上記の流れを経て、お店がレジスターなどを通さずに、根拠なく売上を計上していることが発覚した場合には、売上金額自体を推定し、課税が行われます(※法人税法第131条、所得税法第156条)。

※法人税法第131条(推計による更正又は決定)

税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準を推計して、これをすることができる。

 

※所得税法第156条(推計による更正又は決定)

税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる。 

 

例えば、飲食店における原材料は売上高に応じて変動する「変動費」です。そのため、取引先に対する仕入代金から逆算(飲食店の原価率は平均30%)して、どの程度売上があるかを推計したりもします。ただ、飲食店の原価率の平均が30%といっても、イタリアンのお店と居酒屋では原価率に差があるので、同規模の同じ業種の原価率などを参考に推定するものと思われます。

 

なお、青色申告書を提出している法人ではこの推計課税は適用されません。それなら自分のところは関係ないと思っていても、税務署はそもそもの青色申告を取り消して推計課税を行ってきますので、逃れることはできません。

 

<結論>

売上を抜いていることが発覚すれば、重い罰金が待っています。売上はきちんと計上し、適切な情報を基に経営をしていきましょう。

 

 

田港 大輔

税理士

 

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