今回は、パート・アルバイト比率の高い店舗に対して税務調査官が注目する点について見ていきます。※本連載では、飲食店専門の税理士事務所を経営するとともに、自らも調理師として料亭経営に携る田港大輔税理士が、飲食店経営にあたっての税務上の留意点を解説していきます。

利益率の低さから非正社員に依存しがちな外食産業

外食産業は労働集約型産業であり、一般には利益率の低い業界といわれています。

 

そのため、従業員に支給できる給料が捻出できず、その結果として社会保険などのコストが発生する正社員よりパート・アルバイトなどの比率が高くなっています。

 

また、ランチタイムやディナータイムにお客様が集中し、反対にアイドルタイム(お客様が少ない時間のこと)には従業員は必要ないため、パート・アルバイトで店舗を回した方が経営が効率的という面もパート・アルバイト比率を高める一因です。

 

特に個人の飲食店では、正社員が在籍せず、オーナー様やそのご家族以外の従業員は全てパート・アルバイトで賄っている店舗も多いのではないでしょうか。

 

また、給料が現金振り込みではなく、現金払いのケースも出てくるでしょう。

 

本記事では、そんなパート・アルバイト比率が高い業種で「税務調査官」が注目する点をお話します。

税務調査官は「架空人件費」を真っ先に疑う

上記のような特徴を有する飲食店に関して、税務調査官はまず「架空人件費(※)を計上しているのではないか」と疑います。

 

※ 架空人件費とは、実際に存在しない従業員に対し、給料を支払ったことにし(支払ったことにした給料はもちろん自身のポケットに入れる)、その分の経費計上・利益圧縮をすることにより結果として納税額を抑える方法。

 

そして、税務調査官は架空人件費の計上を疑った場合には以下のような資料を調査で確認します。

 

・社会保険に加入している場合

社会保険の加入手続き書類が確認されます。なぜなら架空の人物を加入させることは社会保険手続き上できないからです。

 

・社会保険に加入していない場合

給与支払報告書(年末調整後に市町村に提出する資料)を確認します。なぜなら、この給与支払報告書を使って市町村は翌年の住民税を決定します。その際に、架空の人物であれば市町村の側で登録をすることができません。

 

また、実在する人物の名前を勝手に借りていた場合も、住民税の金額が異様に高くなっていることに当人が気づいて不正が発覚します。

 

ここで、注意点として給与明細の控えは証拠にならないことを認識しておいてください。

 

なぜなら、給与明細は自分自身で作成できるものです。内部資料はいくらでも偽造ねつ造出来ますので調査官は証拠として認めてくれません。

現場の正社員が架空人件費を計上している可能性も

上記で説明した架空人件費の計上ですが、複数の店舗を経営しているオーナーにとって、アルバイトの採用を現場の店長などに任せている場合には、店長が架空人件費を計上している可能性にも注意が必要です。

 

具体的には、下記のようなことが起こりうるということです。

 

現場でのアルバイトの採用権限を有している店長などが本部に人員の登録をお願いして、架空のパート・アルバイトをタイムカード上に存在することにします。そして、適度にタイムカードを打刻するなどして架空アルバイトの人件費を計上。そのような複数店舗を運営している会社であれば、給料は振り込みで行われるかと思いますので、振込先を自分が作った口座にしたり、友人に頼んで口座に振り込ませてもらったりなどして給料の回収を行います。

 

このような従業員による架空人件費の計上を防ぐには、人事部が人員を登録する際にきちんと根拠資料(例えば、住民票)を基に登録するようにルール作りをする必要があります。間違っても、店長にお願いされたからと何も資料を確認せずに登録したというような、不正を冗長するような仕組みではいけません。

 

また、そのような架空人件費を計上している店舗であれば、他の店舗より利益率が悪くなるなど何かしらの兆候が現れてきます。きちんと計数管理をすることは、不正を防ぐことにもつながるのです。

 

<結論>

税務調査官は飲食店の業態(日本料理やカフェ等)ごとの平均的な人件費率を把握しております。調査の最初に行われる質問の中で「ピークタイムは何人で店舗を回しますか?」等、さりげない質問の中から辻褄が合わない事項等を探し、怪しい点も探しております。

 

また、自分が被害者となって従業員に架空人件費を横領されることもあります。税務調査官と同様な目線で自分の会社の監査もするようにしてください。

 

 

田港 大輔

税理士

 

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