家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは「非上場の会社の株式」を承継する際の留意点やコスト等について見ていきます。※本記事は税理士法人ベリーベストの澤田涼氏の書き下ろしによるものです。

「非上場株式の評価額」の算定は複雑だが…

Q 資本金100万円で設立した非上場の会社の株式を承継するには、どれくらいのコストがかかるでしょうか?

 

A 一概にいくらとは言えず、会社の価値を反映した株式の評価額を算定し、それに応じたコストがかかります。

 

会社を設立すると、出資者である個人はその会社の株主としての権利・義務を表章する株式を保有することとなります。株主には、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会における議決権 の3つの権利が認められています。会社の経営を安定させるには、③の株主総会における議決権をどれぐらい持つかが最も重要です。

 

例えば3分の2以上の議決権を保有することで、株主総会の特別決議(例えば定款内容の変更等)を単独で成立させることが可能となります。中小企業では会社の株主である代表者が意思決定を行なうケースが多いので、事業を後継者に承継する場合には、代表権と共に株式を承継していくことが一般的です。

 

では、この場合の株式の評価額はいったいいくらになるのでしょうか。実は、その計算は「専門家が10人評価しても、10人とも別の金額になることもある」と言われているくらい、非上場株式の評価額の算定は複雑です。

 

上場株式であれば、市場で時価が決まっていますが、非上場株式会社の場合には、通常、市場で取引されるものではないので、何らかの方法で金銭的価値を見積もる必要があります。そこで、国税庁は財産評価基本通達で、非上場株式の評価方法について定めています。

 

方法としては、会社の規模や状況に応じて評価を行なうこととなりますが、ざっくりというと、①財産評価基本通達に基づき評価をしたその会社の純資産の価額と、②その会社の業種に類似する会社の各要素(配当・利益・純資産)を比準することで算定した価額を折衷もしくはいずれかを採用することで算定します。

 

社歴が長くて業績が好調な会社である場合には、当初100万円で設立した会社の株式でも、1000万円、場合によっては1億円の評価額となっているケースもあります。また、この株式はあくまで株主個人の財産ですので、仮に株主に不幸があった場合には、その株主(被相続人)の相続財産としてカウントされることとなり、相続人に思わぬ相続税の負担が生じる可能性があります。

 

その上、非上場の会社の株式は、上場会社と異なり自由に売買を行なうことができないケースがほとんどで、換金性も高くはありません。したがって、仮に被相続人の財産のほとんどが株式である場合には、株式により高額となった相続税の納税資金を相続人が個人で準備する必要があります。

 

中小企業へ事業承継に関するご提案に伺うと、今後の会社の展望として「業界的にどのようになっていくので、このようなアクションを起こす必要がある」といった内容や、「業界的に自社はどのようなポジションにある」ということについては、しっかりと把握されている場合が多いです。

 

それに対して、自社の株式の評価額がどれくらいなのか、仮に相続が発生した場合にどれくらいの税負担があるのか、ということについては、把握されていないケースが多く見受けられます。実際に株主(代表者)に相続が発生してからでは対策の幅も狭まってしまい、遺産分割協議の結果次第では、事業を承継しない相続人に株式が渡ってしまう可能性もあります。

具体的に検討すべき内容とは?

日本では中小企業の事業承継が喫緊の課題となっています。事業承継に関する税制改正等の話題がメディアなどで取り扱われることが多くなり、事業承継への関心は高まってきてはいます。しかしながら、多くの経営者は日々の事業運営に手一杯で、特に期限があるわけではない事業承継についての計画が後回しになっているというのが実情のように思います。

 

では、事業承継を考えていく際には、どのようなことを検討する必要があるのでしょうか。主な検討事項は、次の通りです。

 

①会社の現状把握

②承継方針の検討・後継者の選定確保

③承継方法の検討

 

①会社の現状の把握

今後の承継方針を決定していく場合には、現状の株式評価額がいくらであるかを把握することが先決です。なぜなら、株式評価額が低い場合には、承継に関してコスト面で悩む必要はないでしょうし、評価額が高い場合には、それに応じた方法を検討する必要があるからです。

 

株式の評価方法は、原則的評価方式・特例的評価方式と大きく分けて2つの評価方法があります。さらに、採用する評価方法は承継する相手に応じて異なります(細かくなるので、詳細は割愛します)。今後の検討材料、そして現時点での自社の状況を数値として再認識するためにも、顧問税理士に依頼をして簡易算定してもらっても良いかと思います。

 

また、一般的に事業承継には5~10年の期間を要すると言われています。経営者の勇退のタイミング等も検討しながら、承継までどれくらいの期間があるのかも把握しておくと良いでしょう。

 

②承継方針の検討・後継者の選定確保

会社の後継者を誰にするのか、株式を誰に承継していくのかを検討する必要があります。経営者の親族に承継をしていくのか、親族外である役員もしくは従業員に承継をしていくのか、はたまた会社を第三者に譲渡(M&A)するのか、大きく分けて3通りの選択肢があるかと思います。かつては親族に承継をしていくケースが多かったのですが、後継者不足からM&Aという選択をする会社も増えてきています。前述の株式の評価額等も踏まえ、総合的に検討していく必要があります。

 

③承継方法の検討

計画的に株式の承継を行う方法としては、譲渡と贈与の2通りがあります。それぞれのメリットとデメリットは以下の通りです。

 

メリット

【譲渡】株式譲渡益が出る場合には、株式を譲渡する側である経営者に所得税が課税されることになるが、分離課税で計算されるため、株式の評価額によっては低い税率で承継が可能

 

【贈与】贈与を受ける側である後継者に贈与税が課税されることになるが、一定の要件を満たした場合には、事業承継税制の適用を受けることで、贈与税を猶予することが可能

 

デメリット

【譲渡】後継者が譲渡代金分の資金を準備する必要有

 

【贈与】株式の評価額によっては、譲渡よりも税率が高くなる可能性有(暦年贈与の場合、最高税率55%)

 

上記はあくまで一例であり、様々な方法を組み合わせることでより効果的な対策を取ることが可能となります。また、株式の承継のみを考えて最善と思われる方法と、相続まで踏まえて最善と思われる方法は異なる場合もあります。よって、一つの側面にとらわれることなく、様々な側面から最善と考えられる方法を比較検討していく必要があります。

 

取れる対策の幅が広いという意味でも、事業承継の計画、検討は早いに越したことはありません。万が一のことが起こって承継に関する話が原因となり、本業に支障をきたしてしまっては元も子もありませんし、早め早めの対策で円滑な事業承継を図っていくことが、会社の将来の発展にも繋がっていくのではと思います。

 

自分にはあまり関係がないと思われることも多いですが、この記事が一人でも多くの方の事業承継対策の重要性に気づく一助となれば幸いです。

 

 

澤田 涼

税理士法人ベリーベスト 税理士

 

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