今後も続く「法人税」への引き下げ圧力
ここ数年、個人への課税強化が続いています。優れた企業を誘致するため、あるいはより低税率国への移動を防止するために、世界的に法人税率の引き下げ競争が行われています。
我が国においても、法人税収は、国際的な活動をしている力のある大企業の寄与率が高いことから、引き下げ方向の圧力が高い状況が続いています。国際的に見ても日本の法人税負担率は高い方ですから、この流れはとどまることはないでしょう。
法人税が下がる一方で、国の借金は1000兆円を超えて久しく、現時点でも国債の発行が償還額を上回っている、財政再建待ったなしの状態が続いています。他の国にならって法人税を引き下げた分、他の税で帳尻を合わせなくてはならない訳です。
この帳尻を合わせるのが、所得税、消費税、相続税ということになります。
2005年からは所得税の最高税率が5%引き上げられ、国税と地方税を合わせると55%となっています。
2012年には相続税の大改正があり、基礎控除が大きく引き下げられました。これにより、それまで相続税の課税対象が大きく増えました。
また、2019年には消費税率が8%から10%に上がります。
さらに2018年からは高所得者に対する配偶者控除の見直しが行われ、本人の合計所得が1000万円を超える場合には、これまで配偶者に給与所得や年金所得がなければ38万円の控除を受けられていたものが、13万円に減ってしまいます。
また、2020年からは高所得者に対する給与所得控除(給与収入850万円で195万円が上限)がさらに縮減されることが執筆時点で検討されており、さらなる増税となることが見込まれています。
一番お得な納税の形は法人税、そのことをしっかり頭に入れてください。
会社経営の観点で役員報酬は「非効率」なもの⁉
「役員報酬にすると所得税も社会保険も高くて非効率なのはよく分かった。でも、貰えるものは貰っておきたいし」と考える方、役員報酬を多くした結果、お金が増えている実感はありますか?
役員報酬には所得税がかかります。今後の増税もさることながら、現行税制でも所得税は超過累進税率といって、所得が上がれば上がるほど税率が上がります。つまり、役員報酬を増やせば増やすほど、手取り率は低くなるということです。
では実際の、役員報酬の手取り額を見てみましょう。下記の図表は役員報酬を月額50万円ずつ増やした表になっています。
[図表]役員報酬の高い課税・社会保険料
このように、役員報酬を50万円増やしても、所得税や社会保険料負担が重いために、手取り額はあまり増えません。月額50万円から100万円に増やした場合には約34万円増えていますが、月額150万円から200万円の場合は約27万円しか増えません。
しかも、社会保険料は会社負担分もありますから、役員報酬を増やして法人税が減ったとしても、社会保険料の会社負担分が増えてしまうために、会社と個人を合算した場合のトータルの手取り率はさらに悪くなります。
役員は手取りが少なくてももらえるのは嬉しいと言うかもしれませんが、会社経営の観点からは役員報酬とは非効率なものです。
さらに役員報酬は多くても、会社のお金が足りなくなり、役員が貸している会社が、非常に多くあります。「貰えるものは貰っておきたい」と受け取った役員報酬を、結局会社に投入している形です。
その貸付は、最初から役員報酬にしなければ、行わなくて良いものだったかもしれません。2012年までは「役員報酬でもらって会社に貸す」が税率の上で得でした。今は得ではありません。
みなさんの会社に貸したお金は、返ってくるでしょうか? 返ってくることを期待している人はいないでしょう。
それならば、会社に貸さなくて良いように、会社のお金をもっと多くした方が良いことになります。役員報酬にしなければ、引かれる税金も少ないので、会社で有効活用できるお金は増えます。
役員報酬の原資は、会社の利益です。会社が死んでしまっては、原資の出所もなくなります。手取りにして非常に少なくなる役員報酬など、小さな額にこだわるよりも、会社の経営に関する不安をなくせるよう努めた方が、経営の形として健全です。
お金に強い社長の裏ルール
「効果的な納税」をしよう
松波 竜太
税理士 さいたま新都心税理士法人 代表社員