裁判までもつれる「相続トラブル」は年々増えている
夫婦間の微妙なズレを察したように、由井が口を開いた。
「多くのご家族を見てきましたが、残念ながら、いざ相続となると、『仲が良かったはず』という兄弟姉妹が喧嘩になることは珍しくありません」
由井はファイルを開き資料を亀山夫婦に手渡した。
「これは最高裁判所が出している『遺産分割事件の新受件数』です。相続のトラブルが新たに裁判所に持ち込まれる数は右肩上がりで増えてきました。1965年には4120件だったのが2012年には1万5286件と、4倍近くにまで増えているのです」
[図表1]遺産分割事件(家事調停・審判)の新受件数
財産が1000万円以上5000万円未満の人は要注意
「それはやっぱりお金持ちなんでしょう? うちなんかそもそも、もめるほどの財産がありませんから」
「では、次のグラフを見てください。『遺産額別の遺産分割事件数割合』と書かれたものです。簡単に言えば、相続でもめたケースを遺産の額別に分類したのがこのグラフになります」
[図表2]遺産額別の遺産分割事件数割合
一瞥して源太郎は驚きのあまり思わず声が高くなってしまった。
「そんな! 1000万円以上5000万円未満の人が一番多いんですか? これって、ごく普通の家庭ですよね?」
「そうです」
由井がうなずく。
「次に多いのが、1000万円未満のケースです。合計すると、5000万円未満のケースが裁判にまで発展する相続トラブルの7割以上を占めていることになります。いわゆる『お金持ち』ではない家庭の方が遺産分割でもめることが多いのです」
源太郎の横で資料に見入っていた美千子が口を開いた。
「なぜ、そんな悲しいことになってしまうのでしょう?」
「やはり相続財産が少ない分事前に対策をしていないのと、少しでもたくさんもらいたいという気持ちが強くなるのでしょうね。そこに兄弟それぞれが抱えている事情がからむと、収拾がつかなくなってしまい大喧嘩に至ることが多いようです。私の経験でも『とても仲が良かった』という兄弟姉妹が相続のトラブルから口もきかない仲になってしまったというケースは珍しくありません」