一筋縄ではいかない相続対策だが・・・
相続税の改正により、ニュースや雑誌の特集で「増税」という言葉を目にすることが増えました。これまで富裕層の方だけが「相続税」の対象でしたが、例えば持ち家一件と預貯金程度の財産がある一般家庭でも課税対象となる可能性が出てきました。つまり、これまでは「うちの家族は財産が少ないから大丈夫」「家族仲も良いので揉めることはない」と気楽に構えていた方にこそ、相続対策が必要となっているのです。
しかし、多くの方にとっては「相続対策といっても何から始めればいいのかわからない」というのが本当のところではないでしょうか。
実際、法律についての知識なども求められるうえに、法律だけでは防ぐことのできない人間関係についての対策なども必要になってくるため、なかなか一筋縄ではいかないものです。
だからといって対策を怠ってしまうと、大きなトラブルに発展してしまうケースは少なくありません。司法統計によれば、遺産分割調停数は年々増加しており、2012年度は1万5000件を超えています。これは20年前のおよそ1.6倍にあたります。しかも、7割近くが遺産額5000万円以下の家庭であり、税理士である筆者の経験からも、金額よりも人間関係のもつれから紛争になるケースが多いといえます。
そこで本連載では、普通の家庭がどのようにして遺産を巡って争う〝争族〟に変わってしまうのか、その過程を物語で描くとともに、いかにしてもめ事を解決していくのかを紹介していきます。
どこにでもある家庭「亀山家」を参考に対策をする
物語に登場する亀山家は、家一軒と預貯金3000万円だけが財産といった、どこにでもあるような家庭です。あるきっかけから相続対策に乗り出すことになるのですが、想像していた以上の大きな壁が立ちはだかります。
果たして彼らは、どのような方法で円満な相続を実現させるのか、一緒に見ていきましょう。
〈主な登場人物の紹介〉
亀山源太郎(69歳)・・・亀山家の主。一部上場の食品メーカーを退職後、悠々自適の日々を送っている。最近、健康診断で脳に血栓が見つかり、医師からは経過観察が必要と告げられたことから相続について考えることが多くなった。
亀山美千子(65歳)・・・源太郎の妻で、専業主婦。夫の検診結果から将来について不安を抱えるようになる。
亀山一美(42歳)・・・亀山家の長女。六年前に離婚、一人娘とともに実家に帰ってきた。両親と同居しながら住まいを改装してネイルサロンを営んでいる。
亀山一太郎(40歳)・・・亀山家の長男。地元の信用金庫に勤めるサラリーマン。実家の近くの社宅で妻の昌子と息子と暮らす。長男としての責任感が強い。
亀山次夫(37歳)・・・亀山家の次男。イベント運営会社代表取締役。五年前に脱サラして事業を始める。婚活パーティや街コンなどが当初はうまく当たったが、その後は赤字に転落し資金繰りに困っている。
亀山彩華(32歳)・・・次夫の妻。イベント運営会社で夫と一緒に働いており、やり繰りに苦労している。息子の将来への教育資金が不安。姑である美千子とはあまりうまくいっていない。
由井満(58歳)・・・Y相続センター所長の税理士・公認会計士。これまで800件以上の相続申告を手がけてきた。専門家として亀山家の相続対策をサポートすることに。