2040年までに今ある自治体の半数は消滅!?
2040年までに、全国の896市区町村の自治体が、消滅の危機に直面する――。数年前、そんなデータが民間の研究機関により発表され、話題を呼びました。内容は、20~30代の若年女性の減少により、少子化、人口減が進み、現在約1800ある自治体の半分が消滅するというものでした。そのなかには、地方だけでなく、東京の豊島区、大阪の中央区といった大都市までもが含まれ、約50%超も人口が減少する可能性があるという驚きの結果が明らかにされています。
実際、平成26年10月1日時点の「人口推計」(総務省統計局)を見ても、全国47都道府県のうち40道府県の人口が1年前と比べて減少しており、2050年には日本の国土の約6割が無人になるという国土交通省による試算も出されています。このように刻一刻と人口減少と少子高齢化が進むなか、近年深刻化しているのが、「空き家問題」です。
首都圏のマンションも空室率が上昇傾向
全国の空き家は約820万戸(平成25年10月1日)と、この20年間で1.8倍に膨らんでおり、2023年には住宅全体の2割にあたる約1400万戸に増加するという予測も発表されています(統計局「住宅・土地統計調査」より)。
その大半は一戸建て住宅ですが、2020年には、都心部のマンション価格が暴落するという「2020年問題」もささやかれるなか、首都圏のアパートについても、すでに空室率が上昇傾向にあります。
2016年5月31日に不動産調査会社のタスが発表した統計によると、東京23区の3月時点の空室率は過去最悪の33.68%、神奈川県も調査をスタートして以来初の35%超え、千葉県も34%台と軒並み苦戦状況にあることがわかっています。
相続税対策としてのアパート建築増加が一因
冒頭から衝撃的なデータばかりをご紹介しましたが、決していたずらにみなさんを脅したいわけではありません。
「人口が減少する→空き家・空き部屋が増える→家賃・不動産価格が下落する」この悪循環は、急激に出生率が向上するか、移民受け入れでも実現しない限り(そして、どちらも実現の可能性は低そうです)、深刻化することは明白でしょう。
ところが、です。こうした人口減少社会にあって、一方で賃貸住宅の着工戸数はリーマンショック後に落ち込んだものの、2011年を底に増加トレンドにあります。空き部屋が増えているのに、なぜ賃貸アパート・マンションが増えているのでしょうか。
アベノミクス効果による一時の株高を受けての資産押し上げ効果、海外投資家による不動産買い、さらには東京オリンピックによる都心部を中心とした不動産価格上昇への期待など、さまざまな要因が挙げられるでしょうが、その一つとして、2015年の相続税改正施行の影響も見逃せません。
先の首都圏のアパート空室率も15年夏ごろから悪化傾向にあり、相続税対策としてのアパート建設が増えたことがその一因とされています。一方で、賃貸住宅の建設、賃貸経営ビジネスを手掛ける企業の業績を見ると、相続対策による需要増により、「〇期連続増益」「今期最高益」といった好業績を上げています。
賃貸物件は経営を間違えると不良資産に…?
もちろん、平均的なデータだけをもとに、「賃貸経営は危ない」「今後、一切手を出すべきではない」などと言うつもりはありません。私の会社のお客様でも、しっかりと賃貸物件をマネジメントし、安定的な賃料収入を得ている方も大勢いらっしゃいます。
私は、よくお客様に「賃貸物件を持つことは、養子縁組をしたようなものだ」とお話しするのですが、賃貸物件は正しく経営すれば、不労所得を稼いでくれる優秀な孝行息子・娘になりえます。しかし、やり方を間違えると、収益減でローン返済に困る、売ろうにも思った価格で売れないなど、厄介極まりない不良息子・娘へとなるリスクをはらんでいるのです。
しかも、たとえ不良息子・娘であっても、養子縁組をしたからには、無責任に放り出すわけにもいかないように、賃貸経営も手を出したら最後、「うまくいかないからやめよう」と思っても、そう簡単にやめられるものではありません。損失覚悟でも、市場で売買が成立しやすい株などと違って、不動産は立地や形状、権利関係などによっては売るに売れないこともあります。スピーディに“損切り”さえもできず、結果的に、相続時の重い課税だけが負担となる不良資産にもなりかねません。
そうでなくとも、「建物を建てれば、誰でも賃貸経営ができた」時代と違い、明らかな過剰供給が予想されるなか、今後、一体、どの程度の賃貸マンションが持ちこたえられるのか。心配でならないのです。
秋山 哲男
株式会社財産ブレーントラスト 代表取締役