生前お世話になった人に遺言書で財産を遺贈する
一人も相続人がいないような場合には、遺産は最終的に国のものになってしまいます。そのような事態は自身の気持ちや信条に反するというのであれば、遺言書で何らかの意思表示をしておく必要があるでしょう。
例えば、生前に世話になった人がいて恩に報いたいのであれば、その人に財産を遺贈するのもよいでしょう。また、何らかの形で社会貢献をしたいのであれば、公益的な活動を行っているNPO法人や慈善団体などに遺産を寄付することも考えられるでしょう。恵まれない子供たちのサポートやケアを行っている福祉施設などに寄付して、その子供たちの未来に、自分の財産がいささかなりとも役立つことを信じつつ、世を去ることも悪くはない選択であるように思われます。
また、そうした遺言が確実に執行されることを望むのであれば、やはり公正証書遺言の形にして、弁護士などの専門家に遺言執行人を委ねておくことが適切かもしれません。
【文例】
1.遺言者は、相続人がいないので、長年にわたり生活を支えてくれた伊井仁世(東京都渋谷区糺森4丁目4番地4号、1971年6月8日生)に、所有するすべての財産を遺贈する。
2.本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。(省略)
信託制度を利用してペットに財産を残すこともできる
また、現在一人暮らしをしながら、ペットを飼っている人であれば、自分の死後、できることならその面倒を誰かに引き続き見てもらいたいと強く望むはずです。その場合には、相続財産をペットの面倒を見てくれる個人あるいは団体に遺贈するという選択肢が考えられます。
また、遺贈ではなく、「信託制度」を利用する方法もあるでしょう。信託とは、他人から財産を預かった者が、その財産を一定の目的に従って管理、運用、処分する仕組みです。財産を預ける者を「委託者」、財産を預かる者を「受託者」といいます。具体的には、受託者に遺産を預け、そのお金を管理、運用、処分してもらってペットの面倒を見てもらえるような仕組みを整えるわけです。
実際、アメリカでは、2010年にがんで亡くなった資産家の女性が、マイアミビーチにある評価額830万ドルの大邸宅を自身の女性秘書と愛犬チワワに使わせるとの遺言とともに、チワワには別途300万ドルの信託財産を残した例が報道されています(もっとも、この女性の唯一の相続人である息子は、母親からの遺産が自分に対して100万ドルしか残されていないとチワワを相手に訴訟を起こしています)。
また、やはりアメリカのケースですが、11億円の遺産を飼い主からもらったマルチーズが2010年に亡くなっていたというニュースが伝えられています。この犬は、飼い主の女性が亡くなった後は年間10万ドルをかけてホテルで生活を送り、食事代10万円、美容院代60万円以外は、ほとんどが警備費用に充てられていたそうです。
このように海外では死後、ペットのために遺産を残すことが当たり前のように行われています。今後、日本でも同様の例が増えていくかもしれません。