相続税の改正は、新たな相続トラブルの火種をもたらすきっかけにもなります。今回は、相続を「争族」としないための遺言書の「付言事項」の重要性などを見ていきます。

小規模宅地等の軽減特例にも税制改正が実施

相続財産の中に、自宅が含まれているような場合には、小規模宅地等の軽減特例が適用されるか否かが大きな問題となるでしょう。小規模宅地等の軽減は、被相続人が所有し、住んでいた居住用宅地のうち一定の要件を満たすものについては、宅地の評価額を80%軽減するというものです。この規定についても、改正がされました。

 

まず、これまでは適用を受けられる宅地の面積の上限は240㎡でしたが、300㎡に拡充されます。また終身利用権付老人ホームに入居中であっても、自宅を貸付けていなければ適用が可能となりました。それから、以下の2点についても注意を要します。


● 「被相続人が居住していた」というだけでは配偶者の取得分を除き、特例は一切適用されません。


● 配偶者以外の相続人の取得分に特例を利用するには、①相続人が「同居親族」(被相続人と同居していた親族)か、②「生計一親族」(被相続人と生計をともにしていた親族)または③通称「家なき子」(被相続人の親族で相続開始前3年以内に、日本国内にある自分または配偶者の持ち家に居住したことがない)か、という3つのうちいずれかの要件を満たす必要があります。

 

なお、この小規模宅地等の軽減特例を利用する場合、例えば、下記のような資産構成のケースでは、恐らく配偶者が自宅、長男・次男が現金各2000万円を相続するという形になるのが一般的でしょう。

 

自宅4000万円、預貯金4000万円

 

しかし、この場合、注意を要するのは配偶者が亡くなった後の二次相続です。すなわち、兄と弟の間で、家をそのまま承継したいという思いと、売却して金銭で分割したいとする意見の対立が生じる恐れがあります。その結果、自宅をめぐり兄弟が「争続」を繰り広げることになるかもしれません。

 

もしそうなってしまったら、子供たちを一つにまとめていた両親という「要」が失われたことが、そのような「悲劇」をもたらしたということになるでしょう。いずれにせよ、相続税の改正は、新たな相続トラブルの火種をもたらす大きなきっかけとなるかもしれません。「転ばぬ先の杖」を心がけ、遺言書をしっかりと作成し、ぜひ、災いの芽を事前に摘み取っておきましょう。

遺言者のメッセージを伝える付言事項の重要性

遺言書の本文は、財産の指定などの記載が主体となりますが、それとは別に相続人に残す言葉を付け加えることが認められています。例えば、遺言で財産を特定の者に相続させるとした理由や家族への思い、お世話になった大切な人への感謝の気持ち、事業発展の期待などを記載しておくことです。このように付け加えられた言葉を「付言事項」といいます。

 

付言事項は、法的な効力はありませんが、遺言者の最後の意思表明となりますので、相続人にとって非常に意味の重い言葉になります。それだけに、書き手である遺言者自身の心情がこもったものであればあるほど効果が期待できます。個人的には、遺言者のメッセージがうまく伝わるかどうかは、遺言書の末尾に記載するこの「付言事項」こそが最も大きなポイントになると思っています。

 

付言事項については、いびつな個人主義がはびこってしまった現代社会の親子関係や、他人任せの介護の現実を見れば、それほど大きな効果は期待できないという悲観的な意見もあります。また、法的効力を持たないという理由で、必要ないものと最初から決めつけ、無視してしまう遺言書もあります。こうした悲観論や懐疑論にも一理あるかもしれませんが、筆者は、付言事項へのそうした懸念は遺言書そのものを「感動シナリオ」にすることによって解消できると考えています。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続争いは遺言書で防ぎなさい

相続争いは遺言書で防ぎなさい

大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

相続をきっかけに家族がバラバラになり、互いに憎しみ合い、ののしり合う──。 故人が遺言書を用意していない、あるいはその内容が不十分であったために、相続に関するトラブルが起こってしまうケースは数多く存在していま…

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