遺言者の思いを記すことが相続トラブルを防ぐ
本連載の第16回でご紹介したように遺言者のメッセージがうまく伝わるかどうかは、遺言書の末尾に記載する「付言事項」が大きな鍵を握ることになります。その意味をもう一度確認しておくと、「付言事項」とは、法的な面ではなく、遺言の中でぜひとも伝えておきたい思いなどを補足的に注記することをいいます。
遺言では、記載した遺言の内容のすべてに法的な効力が生じるというわけではありません。例えば付言事項として「家族全員仲良く暮らしてほしい」と書いたような場合、確かに遺言者の最後のメッセージとして、その意思は尊重されるべきですが、これを実現させるべき法的な拘束力は全くありません。
しかし、法的な効力を持たないからといっても、記載する意味合いが全くないわけではなく、生前にはいえなかった感謝の思いや、謝罪の言葉を最後のメッセージとして記しておくことで、救われる人がいるかもしれません。また、遺言書が財産を相続人全員に均等に残す内容ではない場合などには、その理由を書き記すことで相続人の間の不満を和らげ、円満な相続が期待できる効果があると思います。
付言事項には、自分がなぜそのような遺言の内容にしたのかという理由や、様々な思いを書き加え、あわせて書き手である遺言者自身の心情、家族や大切な人への思いを「さやけきメッセージ」として記すことに意義があり、それによって相続トラブルを防ぐ最大の効果が期待できるものです。そして、その効果は、遺言書を感動シナリオとして作成することによって、さらに高められるはずです。逆にいえば、感動シナリオの終わりを締めくくる家族や大切な人への最後の「ラブレター」としての役割を付言事項は果たすわけです。
夫婦がともに相互遺言で残した付言事項の例
では、付言事項の具体的な書き方をいくつか紹介していきましょう。本連載の第7回目で夫婦がともに相互遺言を残すケースを紹介しました。例えば、そのようなケースでは、夫、妻が家族に対してそれぞれ下記のような付言事項を残すことが考えられます。
【夫の遺言書の付言事項】
私は、永年にわたり苦楽を共にし、いつも私に尽くしてくれた妻に感謝しています。幸い2人の子供にも恵まれ、それぞれ幸せな家庭を築いてくれて安心しています。私がこのように財産を妻に相続してもらうのは、私が亡き後の妻の安定した老後を家族の思い出いっぱいの家でのんびり過ごしてほしいと、切に願っているからです。そして、これからも家族全員が安泰で、お互いに協力し合い仲良くしてくれることを望んでいます。どうか私の最後の思いをくれぐれも理解してください。たくさんの愛をありがとう。
【妻の遺言書の付言事項】
私は、毎日心穏やかに生活できたこと、いつも私を大切にしてくれた夫に心から感謝しています。子供たちも、それぞれ幸せな家庭を築いてくれて安心しています。私の遺産相続が円満にいくことを切に願い、この遺言書を作成しましたが、どうぞ私の遺志をくれぐれも理解のうえ、納得してください。これからも、家族全員が安泰でお互いに協力し合い、仲良く平和な日々を過ごしてください。素晴らしい家族に恵まれたこと、心から感謝しています。
子供たちは、このような付言事項を目にした時に、自分たちの両親が互いに心から愛し合い、相手を思い合っていたことを深く実感できるはずです。それは、両親からの子供たちへの、このうえもない最上のメッセージであり、また「魂の贈り物」というべきラストプレゼントにもなるのではないでしょうか。