子供のひとりを後継者に指名したいが・・・
ケースによっては、遺留分の放棄を求めることも必要になることがあります。遺留分の放棄を依頼する時には、その理由を付言事項の形で記しておけば、放棄を求められた相続人は納得してすんなりと受け入れてくれる可能性が高くなるでしょう。例えば、次のようなケースでは、遺留分をめぐる争いを防ぐために付言事項を記すのが必須となるでしょう。
【ケース】
遺言者は、音楽出版業を営む同族会社の代表者であり、全株式を所有しています。相続人は、子供(長女、次女)の2人で、両人とも役員を務めており、遺言者は長女に事業を承継したいと考えています。
まず、このケースで遺言がなかった場合は、長女、次女の法定相続分は各2分の1です。そのため、仮に長女と次女の折り合いが悪かった場合などには、法定相続分にしたがって相続すると、持株比率が半々となり後継者が決まらなかったり、会社経営に影響が出てくる可能性があります。
一方、下記のような遺言書があった場合には、長女は全株式を相続でき、会社の後継者となることができます。その結果、会社経営に影響が出る恐れはなくなるはずです。ただし、次女に遺留分放棄の強制はできないため、納得できるその理由や配慮を付言として記載することが必要です。
遺留分放棄を依頼する場合は「理由」を明記する
【文例】
遺言者柊正也は、この遺言書により次の通り遺言する。
遺言者は、遺言者の長女の日向司(1972年7月25日生)を遺言者が代表取締役を務める遊悠株式会社(本店所在地:東京都大田区花舞小路4丁目30番3号)の後継者と定める。遺言者に万が一の時は、次期代表取締役として、遺言者が所有する自社株式のすべてを長女日向司に相続させる。
【付言事項】
次期後継者に長女の日向司を指名した理由は、(中略)責任ある経営手腕、能力が、これからの音楽出版業界の会社経営に適していると判断したからです。次女の大沼みゆきには事業を円滑に継続させるため、その遺留分を主張しないでほしいと願います。ついては、次女の大沼みゆきおよび各役員、従業員全員は本遺言の趣旨を受け入れて、長女の日向司に協力し、変わらぬ支援のうえ、会社の発展に尽力してほしいと希望します。
※日付、遺言者の署名押印、住所は省略しています。