成長性を見るために必要な「複数年の売上」の比較
リュート先生:さて、Income statement の形が分かったところで、実際はどのようにして Income statement の数字を読み取り、ビジネスの改善に活用していくのかについて勉強していきましょう。
まずは、下の図を見てください。これは3年分の Income statement を横に並べたものです。
[図表1]Income statement の実数による傾向分析と直し方①
理郎:あれ、先生、Income statement って1年分の業績を見るのではないのですか?
リュート先生:もちろん1年分について、売上に対してそれぞれの利益がどのくらいあるのかという見方もします。ただ、実際は1つの会社の単年度の Income statement だけを見ても、その数字が業績として良い方なのか悪い方なのかということは判断しにくいのです。
なぜなら、その会社が売っているものや、相手にしているお客さんによって、良いと判断できる売上の大きさや、売上に対してどのくらい利益が出るのが望ましいのかは、かなり違うからです。そこで、まず自分の会社を見るときでも、ここ3年くらいの流れを見るのが普通なんですよ。
順子:やはり一番上から順番に見ていくのですか?
リュート先生:そうです!まず一番上の Sales(売上)がここ3年間で毎年増えているかを見ていきます。売上というのは、「客数」×「商品単価」×「買い上げ個数」ですので、特に値上げをしなくても毎年売上が増えているなら、お客さんの数が増えているか、1人のお客さんが買ってくれている商品の数が増えているということ。つまりビジネスが成長しているということです。
名瀬:売上は必ず増えないといけないんですか?会社としては去年と同じくらいの売上があれば、とりあえず困らないんじゃないですか?
リュート先生:そう思うでしょ。ダメダメ。そんな会社からは社員がみんな逃げてしまいますよ!例えばあなたが社員だとして、この先ずっと給料が上がらない会社にいたいと思いますか?新しい社員も雇えないから、あなたがずっと一番下っ端のままでやる気が出ますか?社員は今日より明日を良くしたいと願うので、会社は売上を増やさないと存続できないのです。だからみんな図表2のような会社が望ましいと思っているのです。
明日実:でも先生、実際はすべての会社が毎年売上を伸ばしていくということはありえないですよね!だから伸びている会社よりも、売上が下がっている会社をどう直すかの方が大事なんじゃないですか?
リュート先生:その通りだよ!それでは図表3のような売上が下がっている会社をどうやって直していくかについて考えてみよう。
[図表2]Income statement の実数による傾向分析と直し方②
[図表3]Income statement の実数による傾向分析と直し方③
売上を改善するためのビジネスの基本とは?
リュート先生:まず皆さんに質問ですが、毎年売上が下がっている会社は、何が問題だと思う?
名瀬:それはやはり社員の頑張りが足りないからじゃないですかね?
理郎:いや、そんな簡単じゃないだろう。先生はどの会社でもみんなそれぞれ頑張っているのに、どんどんダメになっている会社は理論的にどこが間違っているのかって聞いているんじゃないの?
順子:あんまり難しく考えすぎないで、ビジネスの基本を順番に考えてみればいいんじゃないの?
明日実:結局、明日からやれることは何か、簡単に教えてくださーい!
リュート先生:ふむふむ。いろいろな意見が出てきたけど、順子さんの答えが一番近いみたいだね。ビジネスの基本に戻って考えてみましょう。そもそも皆さんがちゃんと何かを買うつもりでお店に行って、たくさんの商品が置いてあるのに何も買わずに帰るときって何を考えていますか?
順子:それは、「うーん、ほかで買った方が安いなあ」とか「ほかの店の方が品質やデザインがいいものがあったなあ」とか「何だか欲しいものが全然ないなあ」とかって思ってますねえ・・・。
リュート先生:その通りだよ!つまり「競争においてほかの店に負けている」または「置いてある商品がお客さんのニーズに合ってない」とき、買う気でお店にわざわざ来たお客さんは何も買わずに帰るんだ。そして、がっかりしてもう次は来ないんだよ。これがどんどん売上が下がるという状態なので、この逆をやればいいんだよ。
明日実:つまり「他店との競争に勝てるように」「お客さんのニーズに合うように」直すということですか?
リュート先生:その通りだよ。では、他店との競争に勝つためには何をしたらいいかな?
理郎:それは、毎日アイデアを出したり、たくさん会議をしたりしてみんなの知恵を集めたらいいのではないでしょうか?
リュート先生:本当にそれで競争に勝てるアイデアが生まれると思う?
名瀬:歴史的に見ればヒット商品のほとんどは、1人の頭から生まれるから、会議をいくらやっても画期的なアイデアが生まれることは少ないんじゃないかな?どちらかというと、会議をすると知識や経験が一番ない人に全体のレベルが合うことの方が多いらしいよ。
リュート先生:本当にそうだね。会議室で素晴らしいアイデアが生まれることはとても少ないんだ。それじゃあどうしたらいいかな?
明日実:とりあえず、明日もっと流行っている店を見に行ったらいいんじゃないの?だってお客さんはそちらの店を選んだんだから、何かヒントがあると思う。
リュート先生:おお、いきなり核心を突いた答えが出たね。まさにその通りだよ。自分よりお客さんに選ばれていて、すでに成功している店に行って学ぶのが鉄則だよ。
理郎:でも、それはズルいんじゃないですか?やはり独力で独自のアイデアを追求する方が美しいと思いますけど・・・。
リュート先生:残念ながら、世界で成功しているビジネスのほとんどは、成功した会社のコピーなんだよ。特許や商標に触れないギリギリの範囲でコピーして大きくなった会社がほとんどで、全くのオリジナルを生み出している革新的な会社はほんの一握りなんだ。
特に経済的に少し進んでいる国で成功したビジネスを学んで、まだそこまで行っていない自分の国で展開して成功することを「タイムマシン・ビジネス」というんだ。つまりは自分の国の少し先の未来に行って、成功しているビジネスをコピーしているんだ。これは世界中で行われていることで、スピーディーに成功したい起業家の常識なんだよ。
順子:先生、ほかの成功している会社を研究すれば、競争の上でその会社に近いところまでは行くと思いますが、その会社には勝てないですよね。その先はどうしたらいいんですか?
リュート先生:そこから先が工夫のしどころだよ。競争力が上がって、収益が十分に上がるようになってきたら、ビジネスを改良する余裕が出てくるから、お客さんにアンケートをとったり、重要顧客にお礼を出して集まってもらって意見を聞いたりして、オリジナルよりもさらに顧客ニーズに合うものをよく考えるんだ。その結果、オリジナルの会社を超えるアイデアが出ることもあるんだよ。そして、売上は回復していくんだ。
では次の節では、同じ実数の傾向分析で、売上総利益や営業利益を増やすためにはどうしたらよいかを考えていきましょう。
<まとめ>
◎会社が成長するということは、売上が伸びているということである。
◎売上が伸びているかどうかは、複数年の売上を実数で並べて比較することで分かる。
◎売上が下がっている場合は、競争に負けているか、お客さんのニーズと販売商品やサービス、販売手法がずれていることが原因。まずは成功している競合他社を研究して、負けているところを発見し、改善点のヒントを得る。
<学んだことを明日の会社で生かすためのヒント>
◎まずは自分の会社について毎年の売上が伸びている原因や下がっている原因を、顧客の立場で考えてみましょう。
◎そして明確な原因が分かったら、その改善策を考えて自分や自分のチームで実行する提案をしてみましょう。
◎あなたが直接売上を上げない間接部門の方なら、営業部門に改善策を提案してみましょう。
◎あなたのこのような取り組みは、「会社の売上を伸ばそうとしている」との評価につながるはずです