誇示される習政権1期目の「成果」
中国内では党大会前、習政権1期目の国企改革の成果を強調する当局発表や報道が目立った(2017年9月29日付金融界、18年4月26日付経済参考報他)。その成果を誇示することが主眼だが、そこから過去5年間の動きが見えてくる。やや細部にわたるが、以下、当局発表や中国内報道に沿い、できるだけ具体的な数値に着目して、何が行われてきたのかまとめてみる。
役員会の設置や外部役員・監査人の選任などを通じて国企に現代的な経営を導入したこと、国企の資本を管理する国有資産管理委員会(国資委、国務院傘下)の組織を効率化し、その権限を強化したことなどが挙げられているが、今後の改革の行方を占う上で特に注意すべき点は、「混合所有制」の推進、国企の統合やゾンビ企業の整理を通じて国企の業績が改善したとされていること、および党の国企に対する管理・指導を強化したことだろう(国企の問題点、国企改革の経緯などについてはこちらを参照)。
<改革の体制整備>
政策形成は中国でよく言われる「頂層設計」、即ちトップダウンで、改革の基礎は国務院が2015年9月に発表した「国企改革深化に関する指導意見」とその付随文書(「1+N」体系と称されている)。Nとして22文書を発出済。「1+N」体系は、①党の国企に対する指導の堅持・強化、国企の範囲・分類、国有資産の管理・流出防止、混合所有制発展など、改革全体の枠組みに関わる意見、②国企幹部の報酬・待遇、役員会機能、従業員持ち株制度、民間資本導入など専門的な問題に関する意見、③改革を試験的に実施する企業の設定など実施体制に関わる意見の3層から成る。体系の下で中央政府各部門が102、地方政府が926の文書を発出した。
<試験企業を通じる改革実施>
党国企改革領導小組(指導チーム)が役員会機能、経営者選任、外部監査人制度、中央国企の合併再編を含む「10項目改革試点」を16年から実施。試験対象を18の中央国企とその傘下にある29の子会社に拡大。試験企業の統合再編を指導し、役員会機能や経営者選任について、党による管理と市場原理の融合を模索。
<現代的企業制度の模索>
①国企を商業1類(競争的領域)、商業2類(国家安全保障や国民経済の命運を握る領域)、公益類に分け、競争的分野への国企参入を明文化。
②中央国企80%以上(83企業)が役員会規範を策定。外部役員人材プールが428名に増加、うち38名を実際に任命。地方国企の92%が役員会を設置。
③16年末、宝鋼集団と武漢鋼鉄集団が合併し、国内トップ国有鉄鋼メーカー、宝武鋼鉄集団が誕生するなど、鉄鋼、石炭、電力等を中心に中央国企34企業18組が合併再編、企業数は習政権発足当初の117から17年末98へ減少、子会社を含めると8390法人減少、管理費用135億元削減。中央国企については、18年1月さらに2企業が統合され、現在総数97。国資委研究センターが発表した「2018中国国企国資改革発展報告」は、18年、中央国企と地方国企、また地方国企間の統合を進めるとともに、中央国企間の統合については、単に統合を加速して大規模企業を作るのではなく、統合の質や効果、統合によって企業全体としての効率性が向上するかどうかといった点を重視していくとしている(6月26日付経済参考報)。
④16年、4977のゾンビ(中国語では僵尸<ジアンシ>、つまり死体)企業(総資産規模4119.9億元)を整理、30.7万人の従業員を配転、2041企業が業績好転、17年下期〜18年上期、さらに500企業以上の改革を予定。中央国企子会社については17年、1200以上の僵尸企業を改革、うち400を整理。
⑤16年、鉄鋼と石炭の全国過剰生産能力削減の各々80%、70%にあたる5200万トン強、2億トン強を国企で実現。中央国企は17年、鉄鋼595万トン、石炭2703万トンを削減し、鉄鋼はすでに累計削減計画達成、石炭は18年さらに1265万トン削減し累計8000万トン削減計画を達成予定。
⑥国企幹部の管理、人事評価と報酬のリンク、市場を通じる経営者・監査人選任の「3項目改革」実施(例えば、中国一汽では適性見直しを通じ幹部若返り、中国保利は幹部の30%を3級子会社から選抜)。歴史遺留問題と言われる「三供一業」、つまり国企が従業員に提供している電力、水道、暖房、物流管理サービスの国企からの分離が17年80%終了、18年中に完了予定。
また、国企が補助金を出して運営する病院についても、国資委が17年8月、地方政府管轄とする、あるいは閉鎖・再編成することで国企から分離する指導意見を発出。17年末、2000強の病院がなお国企に残っており、18年末までに分離を完了させる予定。
外部投資者による資本参加も進む
<混合所有制推進>
①16年までに中央国企子会社68.9%、地方国企47%が混合所有制に移行。
②移行する国企のレベルが3級子会社から2級子会社へと上昇。電力、石油、天然ガス、鉄道、航空、電信、軍需工業などの重要分野に拡大。
③第1、2回試験企業に設定された19中央国企のうち、すでに7企業に外部の戦略投資者が資本参加し(18年2月時点、40の外部投資者で計900億元以上)、再編・新設会社上場。17年12月、第3回目として31の試験企業設定(中央国企10、地方国企21)。
<国有資産管理体制の強化>
①14年、国資委の下に国資投資会社、国資運営会社を設立。国資委が直接国企に対して出資者として行使していた18項目の権利行使を国資投資会社に授権。また国資委の43の監督管理事項を廃止または下部に授権するなど、その組織を効率化。国資委に3つの専門部局を新設。
②国資運営会社の資本管理計画策定を指導し、国企構造改革基金と国資リスク投資基金を創設。
③15〜17年、国有資産管理関連の27文書発出。
④重点領域や国外国有資産の監督強化。重大国有資産流出案件の専門調査、責任追及。
<党の国企に対する指導強化>
①「企業内党組織建設活動を定款に明記せよ」との党指示(17年3月)に従い、98全ての中央国企が定款を変更し、同一人が党書記と董事長を務める「一肩挑」を実施(これまでは、党書記は必ずしも企業の法定代表人でなかった)。また3076の中央2,3級国企が定款を変更し、役員会を設置している2490が一肩挑を実施(17年4月時点)。
②17年を国企の党活動推進実施年とし、実施を「望ましい(軟)任務」から「実施すべき(硬)任務」に変更。
③党が国企幹部を管理する原則と市場機能を融合させるため、全ての中央国企に企業内党活動を担当する副書記ポストを設置。
④国資委党委が全中央国企巡視、15名の巡視担当が13国企で汚職摘発。
[図表]習政権国企改革を宣伝する当局、地元紙
(注)左図は社会主義市場経済下での混合所有制推進を示す。何れの車も先頭が笑った顔に描かれており、公有制と非公有制が仲良く発展する「国民共進」の考え方を表している。非公有制の車の方に荷物が満載されているのは、「私企業の方が生産に貢献している」という皮肉ともとれる。右図は試験企業を設定して改革を進める手法を表している。