中国の経済体制に直結する微妙な政策課題として、その行方が注目される「国有企業改革」。本連載では、習政権下における「国有企業改革」の現状と今後の課題を探る。

党機関誌に掲載された「私有制消滅」の論文

2017年10月中国共産党大会で、習近平国家主席は国有企業を「做強做優做大」、強大で優れたものにしていくことを明言した。18年3月全人代での憲法修正を経て習政権が長期間続く可能性が出る中、長年の懸案でかつ習政権1期目でも重要事項だった国有企業改革は、国有企業の業績のみならず、経済体制に直結する微妙な政策課題として、その行方が注目される。

 

習政権2期目が事実上スタートした党大会直後の18年1月、党機関誌「求是」は周新城人民大学マルクス学院教授名の論文を掲載した(写真)。論文は「党員は私有制を消滅させるとの一文で自らの理論を総括できる」とし、リベラル、自由主義派と見られている張五常、呉敬琏両著名学者を「社会主義に国有企業(国企)は不要と吹聴し、国企はみな目障りで潰すべきだといった過激な主張をしている露骨な反党・反社会主義新自由主義分子」と名指しで批判した。

 

[写真]中国共産党機関誌「求是」

(出所)2018年1月16日付文学城記事http://www.wenxuecity.com/news/2018/01/16/6902067.htmlより転載
(出所)2018年1月16日付文学城記事

 

「求是」の党内での権威は新華社や人民日報に並ぶと見られており、それだけに、こうした論文の掲載は当局の何らかの政治的シグナルを示すものではないかと内外に大きな波紋が広がった。論文発表の翌日だけで、中国版ツイッター新浪に6万件以上の書き込みがあり、その多くは「文革思想への逆戻りだ」と懸念する声で、「周新城は‘講一套做一套’、つまり言っていることとやっていることが違う。まず自分の財産を全部政府に寄贈してから私有制を批判しろ」といった書き込みもあったという(1月16日付世界之声他)。

マルクス記念大会での習主席の講話との関連

他方で、論文は党大会で新たに王沪寧氏が常務委員に選出された下での複雑な「高級黒」だとの見方もある(1月25日付看中国)。「高級黒」とは中国のネット用語で、「表面上の称賛や肯定の裏に風刺や皮肉が読み取れる」ことを指す。

 

それによると、論文は「保守的、伝統的観念を有し、または偏った考えを持つ党内の一部原理主義者の意見を反映したもので、党内外であまり同感は得られないだろう」「ただし、成長の恩恵を受けていない貧困層が富の再分配を求め、こうした主張に同調する可能性はある」とし、「私有制下で最も自らの富を築いているのは共産党幹部で、彼らは私有制が自らに有利であることをよく知っている。私有制廃止は彼らにとって“躺枪(タンチアン)”、つまり寝ているところを撃たれる不意打ちのようなもの。党宣伝機関が本気で私有制廃止を主張することは、実はそれほど容易でない。」というわけだ。

 

王沪寧常務委員は江沢民、胡錦濤、習近平3代の国家主席に重用され、江沢民「3つの代表」、胡錦濤「科学発展観」、習近平「中国夢、習思想」を考案した党理論のやり手で、「三朝帝師」、つまり3代にわたる皇帝の師と称されている。同氏は6月米朝首脳会談の前後、北朝鮮の金正恩委員長が複数回訪中した際、全行程に同行する等、最近の中朝関係で重要な役割を果たしているとも言われる人物だ(注)

(注)2018年7月頃から、華僑向け海外中国語メディアを中心に、「米国との貿易戦争を招いた政策の失敗」を口実にして、習主席への過度の権力集中、個人崇拝の強まりを懸念する反習派が巻き返しており、「習思想」を理論面で支える王沪宁常務委員の影響力が弱まっているとの憶測も流れている(7月26日付看中国、24日付新唐人他)。

 

5月には党が人民大会堂で盛大に「マルクス生誕200年記念大会」を主催し、習主席自ら、①マルクスは世界だけでなく中国も大きく改変した、②中国共産党はマルクス主義で武装した政党である、③マルクス思想の一般原理は現在も完全に正しい、とする重要講話を行った。言うまでもなく、マルクス思想の核心は「私有制消滅」だ。党大会後のこれら一連の動きは、後から振り返れば、国企改革の行方を占う重要な手がかりだったということになるかもしれない。

 

 

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