国企の効率が、大幅に改善したと評価するのは時期尚早
第1に国企の業績が改善しているとされる点をどう評価するか。一定規模以上(主要営業収入が2000万元以上)の全企業利潤総額の伸びは2013〜17年1.5%、8.5%、21%、▼2.9%、8.7%、18年1〜7月17.1%増。13〜16年国企の利潤伸びはこの企業全体の伸びを大きく下回っていたが、17年以降逆転(図表1)。
専門家は増加率で営業収入が営業費用を上回り、利潤伸びが営業収入の2倍になった点に着目し、国企の経営効率化が数値に現れてきたとしている(中国財政科学研究院副院長コメントとして4月27日付経済日報報道)。しかし、国企の効率が大幅に改善したと評価するのは時期尚早だ。国企の資産百元あたり営業収入は一貫して私企業を大きく下回り、営業収入百元を生むのに必要な費用は私企業を上回っている。国企は対資産比でより大きな負債も抱えている(図表2)。
さらに、国企の完成品在庫回転日数や債権回収期間は何れも私企業より長い(16年〜18年7月、各々私企業11.3〜15.0日、25.8〜36.9日に対し、国企15.4〜16.4日、38.6〜41.3日)。効率性指標の私企業との格差は一貫しており、直近やや縮小しているものの、なお大きい。
[図表1]国企業績の推移
[図表2]国企と私企業の効率性比較
産業別に見ると、国企業績改善に寄与しているのは鉄鋼や石炭、石油化学が中心だ(17年、18年1〜7月の利潤前年比は各々、鉄鋼精錬圧延加工1.8倍、2倍、石炭採掘2.9倍、18%増、石油天然ガス採掘は17年マイナスからプラスに転換、18年1〜7月4.5倍)。
政策的に統合が進められた分野が多く、改革による業績改善と評価できなくもないが、直接的には鉄鋼や石炭の国企が過剰生産能力解消を進め(図表3)、関連価格が反転したことが大きい(16年、17年、18年1〜7月上昇率、鉄鋼2.5%、27.9%、12.7%、石炭▼1.7%、28.2%、5.1%)。そうとすれば、最近の国企業績改善は市場機能を重視した構造改革というより、マクロ市場要因に依っており、中長期的に改善傾向が続くかどうかは構造改革の進捗如何ということになる。
[図表3]
「国退民進」から「国進民退」、そして「国民共進」へ
第2に改革の要である混合所有制推進の評価だ。歴史を遡ると、大きな流れは、1990年代の朱鎔基主導の国有部門を縮小し民間部門を拡大させる「国退民進」→90年代末〜2000年代の江沢民、胡錦濤政権下の「国進民退」→習政権下「国民共進」になる。90年代後半〜2000年代初頭の状況を中国語文献から検証すると次の通りだ。
朱鎔基氏は98年から3年間で国企を業績不振から脱出させる「三年脱困」方針の下、国企の整理、民営化推進を掲げた。しかし6百万人とも言われる「下岗(シアガン)潮」、つまり国企に大量の実質失業者が発生し、社会に大きな反発が起きた。97年鄧小平氏死後、江沢民氏は権力を集中させたが、唯一経済政策は朱鎔基氏が握ったままで、これが江氏の我慢ならなかった点だったとされている。
朱氏は99年4月訪米するも米からWTO加盟支持を取り付けられず、またその1か月後、米の駐ユーゴ中国大使館誤爆事件が発生。江氏はこれらを口実に朱氏を「架空」、つまりその権力を骨抜きにした。
他にも99年4月、朱氏が中南海で法輪功代表と会見し国際社会から高い評価を受けたことに対し、江氏が翌日の政治局会議で批判。また同時期、朱氏が大がかりな密輸調査を実施し、江氏に近い一連の人物が大量の石油や車の密輸を手助けしていたことを暴露したのに対し、江氏が朱側近を収賄容疑で逮捕するなど両者の確執が深刻化した。国企改革も99年を境に主導権が朱氏から江氏に移る。「中国共産党大事記1999年」の国企改革に関する記述は江氏の動静のみに言及し、朱氏への言及は皆無となった。
かつて江沢民路線で汚職蔓延
以後、2000年代は「国進民退」、つまり国企の独占化が進み民営企業が後退、国企を利用して江派が私腹を肥やす構図が強まった。胡錦濤政権下では所得格差拡大に対応して「和諧(調和のとれた)社会」の実現が政治的スローガンとなり、思想面で市場機能を重視した改革路線を批判する論調が台頭したため、これが結果的に「国進民退」の傾向を強めた。
[図表4]国企の独占と民間企業
朱氏と江氏の国企に対する考え方は対照的だ。朱氏は「浙江は国企の比重が10%と全国で最も低いが、改革開放の過程で独自の道を歩み経済が発展している。他方、国企の比重が70〜80%を占める地域では貧困が残ったままだ。これら地域は浙江の経験に学ぶべきだ」「国企の比重が低くても、政府の指導的地位に影響はない。人々の生活が改善するなら悪いことは何もない」「企業が自主経営をして業績は自己責任。政府が経営の意思決定に介入すべきでない」「企業への介入・管理を止めれば政府部門の人員は半減できる」。
他方、江氏は「公有制主体はいかなる状況でも不変」「国企は国民経済の柱、社会主義経済の基礎で、国家が経済社会発展を指導推進、調整管理する際の基本力」「国民経済の命運を握る重要産業や核心領域で国企が支配的地位を占めるべき」、さらに「国企での党組織建設活動を強化し、国企に政治的核心作用を発揮させる」「国企の党委関係者が役員会に入る一方、董事長らが党委に入る。党委書記と董事長は同一人で可。これにより、重要事項について統一的な意思決定が可能になる」だ。
朱氏が市場機能や国企内部の構造改革を重視したのに対し、江氏は国企問題を政治的観点、社会の安定、共産党の指導という観点からとらえた。上述した現在の習政権の国企改革は、江氏の「公有制主体」「党の指導強化」「党委書記と董事長の同一人兼務」といった主張そのものだ。かつてこうした路線が国企構造改革を遅らせ、腐敗汚職蔓延に繋がった。「混合所有制」や「国民共進」の旗下、民間資本導入による国企の資本形態多様化、国企役員の市場を通じる選任、腐敗汚職取り締まり強化などで、同じ失敗を繰り返さないようにできるかが今後の焦点だ。