2人以上の人が同じ遺言書で遺言することはできない
特に仲の良い夫婦の場合には、共同で遺言を残すことを考えるかもしれません。そのような場合、「同じ内容であれば共同して一つの遺言書を書いてもよいのでは」と思いがちです。
しかし、2人以上の人が同じ遺言書で遺言すること(共同遺言)は禁止されています(民法975条)。これを共同遺言の禁止といいますが、これに違反すると遺言書は無効になってしまいます。
遺言は、本人の最終意思を尊重するという趣旨から、いつでも自由に撤回できる(民法1022条)ことが保障されています。ところが、共同で遺言を作成することを認めてしまうと、撤回も共同で行わなければならなくなり、各遺言者が自由に撤回することの妨げになってしまいます。
そのために、遺言は、いつでも遺言者が自由に撤回や訂正ができるように、一人で作成する必要があり、共同遺言は許されないとされているのです。したがって、夫婦で同じ目的を実現することを目的として遺言書を作成するような場合には、共同遺言にならないよう、十分に注意しなければなりません。
配偶者が確実に相続するには夫婦相互遺言が有効
では、ある夫婦が下記の事例のような形で財産を所有しており、不動産(自宅)に関して、相互に相手に相続させたうえで、夫婦とも最後にはそれを長男に相続させたいと希望している場合には、どのような遺言書を作成すればよいのでしょうか。
【事例】
財産(建物)……夫・内田隆雄名義
財産(土地)……妻・内田藤惠名義
子供(2人)……長男・内田宇彦
……長女・三条翔子
このようなケースで、自分が先立ってしまった場合に、確実に配偶者が財産を受け取れるようにするためには、夫婦相互遺言を作成しておくことが最も効果的な手段となります。つまり、夫と妻が別々の用紙でお互いに「自分が先に死亡したら、自分の財産は残された相手(配偶者)に相続させる」という内容の遺言をしておくのです。そのような遺言があれば、残された相手(配偶者)の実印だけで、自宅の名義変更の手続きもできるため安心です。
ただし、夫と妻のどちらかが死亡した場合、残された相手の遺言書は、死亡した配偶者に相続させる内容となっているので無効となります。そこでそのような事態も想定し、あらかじめ「予備的遺言」を入れておくとよいでしょう。
予備的遺言とは、推定相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合に備えた二次的遺言のことで、例えば「遺言者よりも配偶者が先に死亡した時は、私の財産は長男に相続させる」といった内容が考えられます(ただし、遺留分の問題が発生する可能性がありますので、遺留分を考慮した遺言を作成するか、各相続人の理解を求める付言事項を記載するなどの配盧は必要となるでしょう)。
なお、夫婦相互遺言は自筆による遺言ではなく、公正証書遺言を選択する方がより安全で確実です。作成する際は、必ず公証人などの専門家に相談することをお勧めします。以上のようなポイントを意識すると、右の事例の場合には、夫、妻はそれぞれ以下のような遺言書を作成することが考えられます。
【記載例】
●夫の遺言書
遺言者内田隆雄は、この遺言書により次の通り遺言する。
第1条 遺言者はその所有する次の財産を遺言者の妻の内田藤惠(1965年2月22日生)に相続させる。ただし、妻の藤惠が遺言者よりも先に亡くなった場合は、長男の内田宇彦(1990年5月10日生)に相続させる。
建物(所在、家屋番号、床面積などは省略)
第2条(遺言者の妻の藤惠から相続した財産についての遺言)遺言者は、前記妻の藤惠から次の財産を相続した場合はこれを、次の者に次の通り相続させる。
前記内田宇彦に相続させる財産
土地(所在、地番、地目、地積は省略)
【記載例】
●妻の遺言書
遺言者内田藤惠は、この遺言書により次の通り遺言する。
第1条 遺言者は相続開始時に所有する次の財産を、遺言者の夫の内田隆雄(1958年3月11日生)に相続させる。ただし、夫の隆雄が遺言者よりも先に亡くなった場合は、長男の内田宇彦(1990年5月10日生)に相続させる。
土地(所在、地番、地目、地積は省略)
第2条(遺言者の夫の隆雄から相続した財産についての遺言)
遺言者は、前記夫の隆雄から次の財産を相続した場合はこれを、次の者に次の通り相続させる。
前記内田宇彦に相続させる財産
建物(所在、家屋番号、床面積などは省略)