錯綜する土地関連改革・・・中国「都市化」政策の行方は? 

中国における「都市化の推進」の現状を見ていくとともに、「土地改革」の行方を探る本連載。最終回は、錯綜する土地関連改革などの課題を見ていく。

収用した農地をめぐる難しい問題

前述の「自発的退出」した際の補償にも関連する土地管理法改正案は2012年に全人代常務委に諮られたが、その後、「2014年までに情勢に大きな変化が発生したことを考慮し、全人代常務委は47条の改正を中止することを決定した」(国土資源部17年9月7日「土地管理法改正の背景と主要特徴」)。

 

47条は収用の際、土地を使用している農民への補償額上限を過去3年間の当該農地平均生産量の30倍と規定している。都市化を進める際、大都市周辺地域での農地転用を促進する必要があるが、そのためには、まず集団所有の農地を地方政府が収用し国有地とする必要があり、それは憲法上「公共の利益上必要と認められる場合」とされている。

 

しかし通常、収用された農地は建設用地となり、補償額をはるかに超える価値となって地方政府や開発業者が潤い、「農民は土地値上がり益を享受できず、立ち退きを迫られるだけ」「土地配分の権限が国に集中し、汚職や腐敗の温床になっている」との批判が絶えない。改正案は47条の補償上限規定を撤廃しようとするものだった。

 

国土資源部が言う「情勢の大きな変化」が具体的に何を意味するのか定かでなく、審議が滞っていた理由は明らかにされていないが、合理的な補償水準について共通認識が得られていないとの専門家の指摘がある(16年3月2日付一財網)。17年5月、国土資源部が一般の意見聴取のため、同部としての改正案を発表したが、そこでは「農地収用の際に農民に支払う補償を、これまでのように年間生産量を基に決めるのではなく、各地方が公開する標準地価を基準とする」とされている。

 

本件にはさらに難しい問題がある。①歳入を土地に依存している地方政府は収用を好む傾向があるが、収用の根拠となる「公共の利益」が具体的には何を意味するか明確な規定がなく、かなりの収用は不要または不適切と見られること(全人代代表指摘、上記一財網)、②農民は集団所有のため、農地を自由に売買する権利が与えられておらず、土地の再配分機能が政府に集中していることだ。

土地公有制の堅持を前提とした中国政府の動き

問題の根本的解決には結局、農民の土地に対する権利の強化・明確化、中央集権的な土地再配分体制の見直しが必要だ。この関連で、以下のような様々な動きがある。ただ政策が錯綜し、また土地公有制を堅持するとの前提が常に強調されており、どこまで抜本的な改革につながるか不透明だ。

 

①13年の三中全会(第3回共産党中央委員会全体会議)で、「計画に合致し、用途の管理制限を受ける」農地転用の場合、譲渡や賃貸等の方式で国有地と同等に都市建設用地市場に参入し、国有地と同等の権利・価格を享受できるようにするとの方針が示され、15年3月、国土資源部が15の市・県を試験地に指定(その後33に拡大)。

 

さらに16年5月、銀行監督委と国土資源部が共同で、上記33の試験地を対象に、用地の使用権を担保に国有地使用権と同様に担保融資を受けられるようにする規則を発出。17年9月までに市場に参入した用地は577、総額83億元、総面積1.03万(ムー)(1亩は666.67㎡)、(17年11月24日付新華網)。

 

②15年8月、国務院は農地としての利用を条件に、承包経営権を担保に農民が担保融資を受けられる制度を導入。300近くの県級行政区を試験地として指定(16年6月8日付経済参考報)、17年1月には北京市管轄内の平谷区農村で北京農商銀行が500万元を上限とする初の融資承認、四川省内の12試験地でも17年4月までに約2600戸の農家に対し累計総額28.8億元の融資が付与された(17年1月19日付人民日報、5月19日付四川経済日報)。

 

③16年10月、党中央委と国務院が農民の権利強化、農地流動化と農業経営大規模化のため、承包経営権を承包権と経営権に分離し、承包権を保護、経営権を流動化する「三権分置改革」を発表。農業の供給側構造改革推進に関する17年中央1号文件(党と国務院が毎年初、その年の最重要課題を示す文書だが、ほぼ毎年農村問題を扱っていることから、事実上、党や政府が農村問題を重視していることを示す代名詞)第33条「農村集体産権制度改革深化」(注)でうたわれた「三権分置を実行(落実)する」が改革の最重要部分として注目された(17年2月7日付法制日報)。

(注)「農村集体産権制度改革」の具体的内容は、農地55.3億亩、建設用地3.1億亩等、土地66.9億亩を中心とする資源性資産、住宅、工具機器等の経営資産、その他2.8億元相当の非経営資産に対する農民の権利改革(16年12月7日付経済参考報)。

 

この方針は同年開催された党大会でも再確認された。17年秋時点、すでに30%以上の農家が流動化された農地を「承包」し、また13の省が関連の実施意見を発出(農村土地承包修正案建議、17年11月1日付農民日報)。党大会では、農民の土地への権利を安定化させるため、承包権の期限をさらに30年再延長することも決定。

 

承包権利の確認登記が31省市区のうち28で進行しており(承包耕地の84%)、山東、寧夏、安徽、四川、江西、河南、陝西、海南、上海、甘粛、貴州、湖北の12省は基本的に作業が終了、全国的な作業終了は18年末が予定されている(17年12月30日付新華網)。「三権分置改革」は、農村振興戦略実施に関する本年中央1号文件でも4大改革任務の1つとして挙げられている(18年2月5日付中国新聞網)。

 

④17年8月、国土資源部と住建部が北京、上海等13の都市を試験地として、一義的には都市部に流入する人口の住宅需要増に対応するため、農民が集団所有する土地を政府の収用を経ることなく住宅用に貸し出せる措置を発表。ただし、総量規制や貸出期間制限があり、また都市計画に沿っている必要があるとされるなど限定的運用。18年1月までに、国土資源部の同意を経て実施方案が出そろった(18年1月26日付経済参考報)。

習政権看板政策の鍵を握る都市化

習近平政権は発足以来、経済政策の看板として「新常態への移行」と「供給側構造改革」を掲げ、投資主導の高成長から消費中心の質の高い成長を目指している。17年開催された党大会ではその延長として「新時代中国特色社会主義思想」(その後、18年3月全人代で憲法序言に挿入)下での「建設現代化経済体系」を掲げた。18年に入り、20年までに貧困を一掃するとの目標実現にも改めて意欲を示している。

 

都市部の1人あたり消費は農村の3倍で、都市化の推進、農民工の市民化は、疑いもなく農村の貧困撲滅に繋がる。マクロ的にも個人消費を大きく増加させることになり、経済成長パターンの変革に資する。また都市化に伴う戸籍改革や土地改革は労働力や土地といった供給側生産要素の配分に大きく影響する。これらの点から、都市化は習政権の看板政策成否の鍵を握っているが、現状ではなお様々な政策が錯綜しており、その行方は定かでない。

 

<主要関連拙稿>

1.「中国都市化の課題」外国為替貿易研究会「国際金融」No.1252、2013年9月

2.「中国都市化の課題」大和総研ウェブサイト2013年10月1日

3.「中国都市化で増える‘死城’」毎日週刊エコノミスト2013年11月26日号

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載中国の重点政策「都市化」と「土地改革」の行方

 

 

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