前回は、自筆証書遺言と公正証書遺言のメリット・デメリットについて解説しました。今回は、自筆証書遺言作成時の留意点について見ていきます。

遺言書を封印して中身の改ざんや差し換えを防ぐ

前回紹介した公正証書遺言のメリットを考えると、遺言書は、基本的には公正証書遺言の形で作成する方が望ましいといえます。ただ、公正証書遺言には、数万円程度の作成費用がかかることと、遺言の内容を公証人と証人に知られてしまうというデメリットもあります。


そのため、このようなデメリットが気になって、「やはり自筆証書遺言で作成したい」という人がいるかもしれません。そのような場合には、自筆証書遺言の作成ルールを守ることが大切となります。

 

①全文を自筆で記載する

②氏名を記載する

③押印を忘れない

④作成日付を特定する

⑤加除訂正にも決まりがある

 

に従うことです。その他にも、隠匿や偽造、変造などを防ぐために、以下のような点に注意しておくとよいでしょう。

 

●遺言書を封印する
遺言を書き終えたら、封筒に入れて糊付けをします。封の部分には遺言書に押した印鑑を押し封印します。封印は遺言書の有効要件ではありませんが、これによって家庭裁判所での検認まで勝手に開封できず、中身の改ざんや差し換えの危険性がなくなり安心です。


最も確実なのは、封筒の表側に「遺言書」などとタイトルを付け、裏側にも「開封厳禁・本遺言書は私の死後、すみやかに家庭裁判所に提出してください」というように記載して、日付と署名押印をしておくことでしょう。

 

●複数ページとなる遺言書には契印する
遺言書が2枚以上になる場合は、全ページが一つの文書であることを証明するために、ページ同士を糊付けするかホッチキスで閉じ、ページ同士を綴じる境目に割印をしてください。改ざんや差し換えの危険性を防ぐうえで効果があるでしょう。

遺言の内容を実現するために「遺言執行者」を検討する

●タイトルを明記する
遺言書であることが明確に分かるように、タイトルは「遺言書」「遺言状」などと書くのがよいと思います。また、内容が暖昧にならないように、どの財産を誰に相続させる、あるいは遺贈するのか明確に記載しましょう。例えば、不動産は登記簿で表示する所在などの記載事項を、預貯金は銀行名・支店名・口座番号などを、容易に特定できるように記載する必要があります。こうしておけば、後で相続人や受遺者が登記や名義変更する際にも便利です。

 

●遺言書の保管
できれば信頼できる弁護士や税理士、司法書士などの専門家、友人などに預けておくのが望ましいのですが、それが難しい場合は自宅の書斎の机の引き出し、仏壇、タンスなどが保管場所として考えられます。しかし、遺言者の死後に遺言書が発見されなかったりする危険性もありますので、配偶者や子に対しては、遺言書の存在や保管場所について事前に説明しておく必要があるかもしれません。

 

●遺言執行者の検討
遺言執行者とは、遺言が効力を生じた後にその内容を遺言者の意思にしたがって実現させる職務・権限を有する者で、相続人の代理人となり遺言の内容を実現するために特に選任された人を言います(民法1006条~)。必ず必要とされるものではありませんが、遺言執行者は相続に関して大きな権限を持っていますので、相続争いが予想される場合などは、遺言執行者を指定しておくことが望ましいでしょう。


指定がない時は、家庭裁判所に選任の申立てをして決める方法があります。遺言執行者には相続人代表者を予定している相続人、または弁護士や税理士、司法書士などの専門家を選任することが多いようです。また、遺言執行者の指定は遺言書によってできますが、その指定を第三者に委託しておくこともできます。なお、遺言執行料でもめるケースもありますので注意が必要です。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続争いは遺言書で防ぎなさい

相続争いは遺言書で防ぎなさい

大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

相続をきっかけに家族がバラバラになり、互いに憎しみ合い、ののしり合う──。 故人が遺言書を用意していない、あるいはその内容が不十分であったために、相続に関するトラブルが起こってしまうケースは数多く存在していま…

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