遺言書の準備に「早すぎる」ということない
相続トラブルの大きな原因の一つは、故人の生前の願いが具体的に相続人に伝わらないこと、そして、故人の意思を確認したくてもできない状況になってしまうことにあります。
財産を残す人は相続人たちの救世主になるためのメッセージとして、きちんとその教えや言葉を伝える責任があるのです。
遺言により、自身の意思を大切な人や家族に伝え、幸せを願い続け、そしてその意思を次の世代に託すこと、それは、将来、相続人の間で起こるかもしれないトラブルや悲劇を未然に回避し、問題解決の糸口につながるメッセージとなるはずです。
そして、そのようなメッセージを用意しておくのに早すぎるということはありません。もしかしたら、人によっては「遺言を書くのは何だか死を意識するようで嫌だ」と感じるかもしれませんが、そのようなことはありません。
例えば、家長の立場にある人であれば、遺言の作成は家族のために行うべき大切な仕事であり義務といえるでしょう。人生において大事なことを行うには、それに適した時期があるはずです。少なくとも60歳を過ぎれば、還暦という人生の節目を迎えたわけであり、そのなすべきことをなす時期に入った、すなわち遺言を書くべき時期を迎えたといえるのではないでしょうか。
したがって、もし「遺言書を作成するといっても、いつからとりかかればいいのか」と悩んでいるのであれば、60歳になったのを一つの目安としてみることをお勧めします。また、遺言書は気に入らなければ、改めて書き直すこともできます。家族や大切な人のことを思うなら、まずは「現時点での考えによる遺言書」の作成から始めてみるのがよいかと思います。
ひとりよがりの遺言書は争いを招く恐れも
遺言書は、その記載内容によっては、残された相続人にとって余計なお節介やありがた迷惑になってしまうこともあります。確かに、遺言書を作成しておくことにより、無用のトラブルを最小限に抑える予防線は張れます。しかし、それが見当はずれのお節介であったりすると、遺言者の単なる自己満足になりかねません。それは、遺言を残す者、残された者双方にとって不幸なことです。
相続の意味合いを理解し、心のこもったメッセージを残すよう努めることは、相続人同士の争いを解決する糸口になるだけでなく、ひとりよがりの遺言書自体が招く恐れのある後味の悪さを回避するうえでも意味を持つことになるでしょう。