遺言書は自分の思いを伝える最後のメッセージ
遺言書を作成したとしても、その書き方が不十分だと、かえって相続トラブルを引き起こしかねない危険性がある点について論じてきました。筆者は、遺言を遺言者自身の意思を残る人たちに伝える最後の「さやけきメッセージ」であると考えています。
「さやけき」という言葉には、「光が冴えて明るい」「音・声が澄んで響く」「清らかでさっぱりしている。すがすがしい」「はっきりしている。明瞭なさま」という意味があります。つまり、遺言は、残された人に「自分の思いをはっきりと伝える最後のメッセージ」なのです。
遺言は、所有している財産を誰に分け与えるのかを決めるためだけのものではありません。遺言には、普段言えなかったことや、大切な人への思いを伝えるメッセージを託すこともできます。そのような遺言者の思いが残された者に伝わることによって、生前に予想もしなかった遺産争いを未然に防ぐ効果が期待できるのです。逆に言えば、メッセージをはっきりと正しく伝えることができて初めて、相続トラブルを防ぐことができるのです。
では、そのためにはどのような遺言を残すべきなのか、本連載では具体的な例を挙げながら、間違いのない遺言書の作り方について、詳しく解説していきましょう。
遺言書は家族関係が複雑化している現代にこそ必要
まず、遺言を適正な形で作成するためには、それが現代日本において担っている役割、社会的意義について十分に理解しておく必要があるでしょう。今は、個人の権利主張がとても強い時代です。それに加えて、相続を受ける相続人世代の経済的不安定感や相続人の間の平等意識、さらには離婚、再婚の増加といった様々な要因が絡み合い、個々の家族関係が非常に複雑になっています。
このような状況を背景として、仲の良かった相続人同士が一瞬にして「争続人」へと変身し、骨肉の争いが起こるケースが増えています。お互いの割り切れない気持ちから、家庭裁判所の調停・審判の手続きを踏み、さらに裁判にまで持ち込みながら、結局また法定相続分による原点回帰の調整が図られて決着するというような、長い道程を経る例も珍しくありません。
近年、故人の生前の意思を尊重した「遺言」制度が脚光を浴び期待される背景には、こうした「不毛な争続」の実態があります。しかし、遺言書があれば、「遺言優先の原則」により、遺言のない場合の法定相続という原則的なルールは適用されなくなります。
遺言書通りに行ったからといって100%「円満」な相続が実現できるとはいえないかもしれませんが、少なくとも「こうあってほしい」と願った故人の意思が最も尊重あるいは反映された相続が期待できます。