銀行の7割が「預金保険料率」を最大の関心と回答
第2に、預金保険料率は0.01-0.02%の基準率のみでスタートしており、人民銀行(中央銀行)は、これは国際的に見てもきわめて低い水準で、銀行経営に与える影響は軽微だとしている。しかし、預金保険規則によれば、今後、個々の銀行のリスクを反映した差別率が導入される予定で、市場では、最終的に大手が0.05%、中小はリスクが高いと判断され0.08-0.1%程度になると見られている。
仮に平均0.05%としても、2015年11月末の預金総額約135兆元に対し保険料は約673億元、2015年第1-3四半期の商業銀行純利潤1.29兆元の5%を超える。今後、金利自由化で仮に銀行間競争が激化し、その収益が圧迫されると、影響はより大きくなろう。
制度導入前に行われた銀行へのアンケート調査では、7割が最大の関心事は保険料率と回答しており、銀行が合理的と考えている料率には0.01-0.1%と大きな開きがある。銀行のリスク評価をどう行い、保険料差別率をどう決定するのか、制度が発足して半年以上経つが、検討状況は伝わってこない。今後、これらに関する議論には紆余曲折が予想される。
政府による「暗黙の保証」が預金保険制度の妨げに
第3に、最も重要な点だが、形の上で制度改革が進んでも、少なくとも当面、実態は何も変わらない可能性がある。まず、預金保険制度だ。中国ではこれまで、銀行経営が悪化しその預金支払いなどに支障が生じても、政府による暗黙の保証(潜規則)があって、銀行にはリスクがなかった(あるいは、ないと受け止められていた)。
例えば米国では、大恐慌で破たんし、リスクが露呈した銀行の信用を回復するため、預金保険制度が導入された。しかし、中国における制度の導入は、実態上、そうした通常の趣旨とは逆に、むしろ、もともとリスクのなかった銀行にリスクを持ち込んだという形になっている。
当局は保護上限50万元(1千万円弱)で99%以上の個人預金が保護されるとしているが、個人預金残高は現在約54兆元で総預金の4割、富裕層や企業の預金の大半は1口座あたり50万元を大きく超える。実際に保護されるのは総預金の半分程度だとの見方もある。制度をまともに運用すると、大きな混乱が生じるおそれがあり、それを避けるため、潜規則が維持されると、実態はこれまでと変わらないことになる。
日本も、バブル崩壊まで長らく預金保険制度は使われることのない「伝家の宝刀」だったが、中国も似たような経路を辿る可能性がある。その意味では、中国は制度の導入にあたって、諸外国の例をかなり検討したようだが、案外、日本の経験に最も関心を持っているかもしれない。