中国では、市場機能を重視する「金融改革」が着実に進んでいるように見える。しかし中国国内においても、金融改革の当初から「形だけ諸外国の真似をしている」という冷めた指摘があり、本当に金融政策が変わるか否かは不透明だ。最終回では、市場型金融政策への道のりが、まだ「遠い」といえる理由について見ていきたい。

金利コリドーが有効的に機能するかは「未知数」

次に、金融政策がどう変わるのか、あるいは変わらないのかという問題である。人民銀行は預金金利上限規制を撤廃した際、諸外国にならって短期金利誘導手段である金利コリドー、中国で言うところの「利率走廊」の導入を検討していくことを再度対外的に明らかにしている。しかし、コリドーには通常、上限、下限、基準金利という3つの要素の設定が必要となる。

 

上限、下限として、常設貸出ファシリティー(SLF:通常のオペよりやや長めの大口流動性供給手段と位置付けられているもの)金利と銀行の人民銀行への超過準備預金金利、または中期貸出ファシリティー(MLF:満期の訪れたSLFを延長する条件として、対象銀行に融資金利を引き下げることを求めるファシリティーとして、一昨年9月に導入されたさらに長めの流動性供給手段)金利とSLF金利の組み合わせ、さらには、担保付補完貸出(PSL:担保を裏付けにした補完的な貸出手段)金利等、金融関係者が様々な金利に言及し、市場が困惑している状況にある。

 

人民銀行は昨年11月にSLF金利を引き下げた際に、コリドーの上限としてSLF金利を考えていること、またその主任エコノミストが、発表したワーキングペーパーの中で、下限として超過準備預金金利が考え得るとしている。商業銀行の人民銀行への超過準備預金の金利をコリドーの下限にする考え方は、欧州中央銀行の例にもならったもので、理論的にも有力とみられているようだが、現在の金利である0.72%ではコリドーの下限としては低く、コリドーの幅が大きくなりすぎて機能しないのではないかと言われている(ただ、オーバーナイトのSLF金利は11月、4.5%から2.75%に引き下げられた結果、現状、上限と下限の差は2.03%ポイントまで縮小している)。

形だけ諸外国を真似た「照猫画虎」の改革

他方、その対応策として、超過準備預金金利を過度に引き上げると、人民銀行が長年、超過準備金を市中の流動性を調節する政策手段のひとつとして使用していることを考えると、商業銀行間に「不公平な政策負担」が生じることになりかねないとの指摘もある。またそもそも現状、中国では金利を引き下げ、流動性を供給しても、銀行が不良債権の増加を恐れ、リスク回避傾向を強める中で、融資拡大に繋がらない状況にあり、こうした短期金利誘導政策が有効かどうか疑問視されている。

 

さらに、適切な基準金利設定には、銀行間の健全な競争、健全経営、発達した金融市場前提となる。中国の金融の現状を前提にすると、コリドーメカニズムが有効に機能するのかどうか、なお全くの未知数だ。人民銀行自身、しばらくの間は、これまで通り、預金貸出基準金利の発表を続けると言明しており、市場では、金利が自由化されたと言っても、人民銀行の商業銀行預金貸出金利に対する関与は、これまでとあまり変わらないのではないかという声がある。

 

中国内では、金融改革の当初から、所詮、中国では経済金融の運営が党主導で指令的な形で行われており、金融機関も大半はなお国有銀行という状況にある中で、改革は「照猫画虎」、猫を見ながら虎を描くように、形だけ諸外国の真似をしているだけだとの冷めた指摘がある。中国において、金融の制度改革が、実態上、真に競争的で効率的な金融市場、市場型金融政策の確立に至るには、なお時間が必要だろう。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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