中国の「経済統計」については、以前から、中央政府が発表する「全国GDP」と各地方政府が発表する「地方GDP合計」に大きなかい離があると指摘されてきた。2018年1月には、内蒙古、天津が相次いで、経済統計に水増しがあったことを明らかにしている。本連載では、中国の経済統計でこうした水増しや矛盾が起こる背景を探る。今回は、「水増し暴露」の背景などについて考察する。

上納金増加の回避、財政補助への期待

これら地方政府を取り巻くマクロ情勢変化に加え、以下のような中央・地方政府の財政関係も影響している。

 

①上納金増加の回避:100%地方政府の収入となる地方税や税外収入もあるが、財政収入を水増しすると、それに連動して中央政府に上納する金額も増える場合が多い。遼寧のある大都市の党委書記によると、水増しされた財政収入の一定割合を中央政府に納めた結果、住民1人当たり約1000元負担が増加。こうした水増しに伴う代価を意識するようになったという(1月14日付南方都市報)。

 

②財政補助への期待:成長率や財政収入を下方修正することで、地方経済が実はもっと困難な実情にあることを中央にアピールし、中央からより多くの財政補助を引き出すねらい。遼寧省政府活動報告は「財政数値の水増しで、中央政府の遼寧経済情勢や遼寧に対する政策判断が誤った影響を受け、また遼寧への財政補助金も削減された結果、市や県政府の民生・社会保障への財政対応能力が弱まった」と記述している。

 

ただ一般には、「転移支付」と呼ばれる中央から地方への移転支出には地方政府の財政力格差を是正するための財源補助的な使途自由の「一般性転移支付」と、農業、教育、衛生、貧困対策等、中央政府がマクロ政策の観点から必要と認める分野に使途を限定した「専項転移支付」がある。転移支付は必ずしも地方の財政赤字に100%リンクしているわけではない。

地方の水増しを黙認してきた中央政府

この他、地方政府幹部が失脚し入れ替わるタイミングで、水増しが公表されることが多いという政治要因がある。遼寧党委書記は16年、天津市長は17年、何れも汚職容疑で失脚した。新任幹部は前任者の水増しを引き継ぐと、分母が大きくなって成長率が高く出ない。過去の水増しからの束縛を解いた上で、自らの成果を示す必要に迫られており、それは中国の役人の「面子」にも関係した問題であるとの指摘がある(2018年1月21日付大紀元)。

 

中央政府からは、水増しの責任は地方政府にあるとの議論があるが、長期間、一貫して地方GDP合計が全国GDPを大きく上回っており、中央・地方政府全体のマインドとなった「唯GDP英雄論(GDPだけで英雄を語る)」の下で、少なくとも中央が水増しを黙認してきた面は否定できない。

 

習政権は発足以来、中国経済がもはやかつてのような高成長を持続できないことを認識し「唯GDP英雄論」を否定し、地方幹部の業績評価を単純に成長率にリンクさせないことを強調してきた。これが地方に浸透してきたということだろうが、ここへ来ての相次ぐ「自曝家醜」の直接的な契機は、党中央全面深化改革領導小組(指導グループ)が17年6月発表した「地区GDP統計統一化改革案」で、国家統計局は3月全人代等の場で19年からの実施を明言している。

 

05年以来、北京や上海等一部で試験的に行われてきた「下算一級」、即ち、各レベルのGDPは一つ上の政府が行う(したがって、省級GDPは中央が作成。これに対し、現在は地方が作成し中央が管理する「下管一級」)を全国的に実施することで、地方GDP統計の統一化を目指す。他方、前幹部が昇進している場合も多く、中央としても統計全体の信用が過度に毀損することは避けたいところだ。今後さらに「自曝家醜」が相次ぐことは許さず、「統一化改革案」の実施に向けてロープロファイルを保ち、軟着陸を目指す可能性が高い。

 

 

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