本人の承諾を得て「公正証書」を作成
前回の続きです。
Aさんは今のところ認知症もなく、判断能力はしっかりあります。「市民後見人センターとちぎ」とAさんとの契約は、委任契約になります。これは公正証書で結びますが、まずもって急がねばならないのは、Aさんの入院です。
そこで、「市民後見人センターとちぎ」は、①Aさんが入院するさいの保証人となる。②預貯金がないAさんの当面の入院費用は「市民後見人センターとちぎ」が立て替える。③それと並行して、財産管理委任契約を公正証書で結んだうえで土地家屋・車の売却を担い、Aさんの費用にあてる方向を出したわけです。
Aさんの快諾をえて、私たちは公証役場に赴き、公正証書を作成していただきました。晴れて「市民後見人センターとちぎ」がAさんの委任受任者となりました。
入院費などについては、Aさんの自宅と土地、車を売却してねん出することも、Aさんと同意書をかわしました。その上で、それらの費用を含め、「市民後見人センターとちぎ」が立て替えることで、病院も役所の福祉課も了承しました。なお、委任契約を結んだAさんから月々2万円の「見守り費用」をいただくことになっていることも明記しておきます。
連帯保証人になったNPO法人が、入院費を支払い
大学病院で検査を受けたAさん、結果は、やはり末期の悪性リンパ腫でした。病室で、医師の先生から告知を受けました。ご本人の希望と医師らのすすめで、高齢であるAさんは、自らの意思で個室ホスピスのある病院に再入院し、緩和ケアを受けることを選びました。
入院誓約書には「市民後見人センターとちぎ」がAさんの連帯保証人となり、入院治療費の支払い、「もしも」のことを誓約しました。「もしも」の内容はAさんが旅立ちを迎えた時、ご遺体を引き取ることです。
誓約後は、すぐに入院の準備です。着替えや洗面具、タオル。ふだん使いなれている持ち物などをAさんにうかがって、「市民後見人センターとちぎ」のスタッフが準備します。
病院で検査入院を終えたあと、個室ホスピスのある病院に戻り、緩和ケアを受け始めて2週間。「市民後見人センターとちぎ」とAさんは公正証書によって、「継続的見守り及び財産管理委任契約」「任意後見契約」(移行型)「尊厳死宣言書」「死後事務委任契約」「遺言公正証書」を結びました。
精神的に落ち着いたためか、Aさんは少し元気になり、食欲も出てきました。現役時代は職人をされていただけあって、Aさんは足腰を鍛えていますから、体調がよくないとき以外は、トイレにも自分で行くことができ、短い距離ならゆっくり自力歩行もできます。
ところで、Aさんの自宅と土地、車を売却してAさんの入院医療費をねん出するわけですが、実は、これがなかなかむずかしいのです。
「市民後見人センターとちぎ」の場合は、街なかの不動産仲介業者には依頼せず、地方銀行の不動産部に依頼します。信用のおける銀行に依頼することは、なかば公(おおやけ)です。後々のトラブルもなく、ご本人も私たちも、安心して売却をすすめるためには、銀行の不動産部を通じてお願いするのが、いちばんです。