前回は、「ビジョン・戦略実現型M&A」が注目を集めている理由を取り上げました。今回は、事業のライフサイクルから「M&Aのタイミング」を見極める方法を見ていきます。

サイクルは「導入期・成長期・成熟期・衰退期」の4つ

前回は、なぜビジョン・戦略実現型のM&Aが注目を浴びているのか、具体例を挙げて説明をしました。今回は譲渡企業側に注目し、いつM&Aをするのが最適なのか、事業のライフサイクルから見ていきます。

 

事業のライフサイクルには、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つのサイクルがあります。

 

導入期は、あるサービスが市場に投入されたばかりの時期であり、徐々に販売量が伸びていくタイミングです。そのため、参入する企業の数も限られています。

 

また、事業としても利益が出ていない時期のため、ITのメディア事業などを除いてこのタイミングでのM&Aでは企業価値がつかない場合が多くなっています。従って、このタイミングでのM&Aは、バイオやITなど、製品はいいがマネタイズができないものに限られるでしょう。

 

次に成長期は、市場が大きく拡大していく時期であり、売上も大きく上がっていきます。利益も計上することができますが、資本投下も必要なタイミングのため、会社がお金を残すことは難しいタイミングです。

 

そこで、大きく成長を遂げている成長期のタイミングで会社がM&Aをすることが重要です。M&Aによって経営者は、今後の拡大に向けてのリスクから開放され、大手の資本で積極的な資本投下が可能になります。さらに、大手グループであれば人材不足からも解消され、成長期で課題になりがちな管理部門や企画部門を強化することも可能です。

「売るのが惜しい」時こそ、M&Aのタイミング

成熟期では、売上の成長も安定的にあり利益も安定しますが、ここで生き残ることが出来るだけの地位がなければ、その企業は成長期よりも低い評価でM&Aをするか、そのまま生き残りをかけて苦労するしかありません。

 

このタイミングでも利益を安定的に出すことができていれば、業界上位の会社であれば「買う側」、そうでなければ「売る側」になることが賢明です。ここがM&Aの最後のタイミングとなります。ここまでの間にどちら側にもついていなければ、会社は衰退期の中で事業のライフサイクルと共に、衰退していくことは必然です。

 

筆者のところに相談にいらっしゃる経営者の方も、成長期の業界にいらっしゃる方は「このタイミングで企業を手放すのは本当に正しいのだろうか」「今手放すのは惜しい」と悩まれています。

 

私がいつもアドバイスをするのが、「売るのが惜しいという今が、常に最適なタイミングだ」ということです。

 

M&Aは企業対企業の交渉事だけで終わるものではありません。マクロ経済の環境、技術や市場のトレンド、業界環境、個々の企業環境が合わさって成功するものです。従って、景気がよくM&Aの件数が伸びており、企業業績も良い今は特にM&Aを成功させる角度が高まります。

 

さらに、企業の運営については、明日何があるかが分からないほど競争環境の変化が早くなっています。ハーバード大学ビジネススクールのクレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」で取り上げたように、優良企業と言われた企業は新しい技術の登場によって破壊されてきました。そのため、今収益性が良いとしたら、M&Aにはうってつけのタイミングであると言えます。

 

他にも、昨今のメーカーのように業界内で不祥事が起きたタイミングでは、他の企業にもその懸念が波及し、自社が不祥事に関与していなくても企業価値が下がってしまったり、M&A自体が成立しなくなるリスクもあります。

 

このように、M&Aというものは企業が「売るのが惜しい」というタイミングこそが価格が最大化され、いくつもの買手から自社に最適な買手をピックアップすることができ、事業を更に成長させていくことができるのです。この点は、譲渡企業の経営者の方には忘れないでいただきたい重要なポイントです。

 

次回は、このような成長期の企業の価値評価をどのように行うかについて取り上げていきます。

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