前回は、ベンチャー企業のM&Aにおいて、買い手としてのリスクを抑える方法を紹介しました。今回は、M&Aの売り手として「IT系の人材紹介会社」の人気が高い理由を見ていきます。

在庫がなく利益率が高い「人材会社」のビジネスモデル

前回は、ITベンチャー企業のM&Aを行う際に譲受側のリスクを低減する「アーンアウト条項」について解説をしました。今回は人材紹介会社でも、特にITの系の人材紹介会社の事例から業界のM&A状況を見ていきます。

 

転職サイトのDODAによると、好景気の中で有効求人倍率は2.87倍に上ると言われています。しかしながら、IT業界全体では7.14倍。その差は3倍以上にもなっています。特にこの傾向は2015年から一貫して上昇をしており、2018年も続くと見込まれています。

 

さらにIT業界の職種別の有効求人倍率を見てみると、ITの技術職が9.2倍程度になっており、コンサルティング職は7.6倍となっています。職種別に見ても、IT系の人材は営業や機械系エンジニアよりも非常に高くなっています。

 

人材紹介会社の場合、コストはキャンディテイト(求職者)を獲得するために必要な広告費と営業担当者の人件費、そして面談をするオフィス賃料が主となっています。一方で売上は、求職者の想定年収×手数料率×成約人数となっています。つまり、重要業績評価指標(KPI)としては、想定年収の高いキャンディテイトを獲得するか、手数料率の高い職種のキャンディテイトを獲得するか、成約人数を多数成約するかが重要になります。

 

外資系の人材紹介会社やヘッドハンティング会社の場合は、非常に高年収かつ高手数料率の人材を年間10人程度を3〜4名で成約していたりします。年収が2000万円で手数料率が50〜70%ということも少なくありません。一方で営業職など想定年収が500万〜600万円で手数料率は35%だが、非常に多くの成約人数を誇る、日系の人材会社も存在しています。

 

このように人材会社のコストはコントロール可能であり、在庫がなく利益率が高いビジネスモデルをしています。

好景気の間は、転職者も多く収益が安定しやすい

東京都内にあるI社も同様です。売上が2億円で営業利益が2千万円、EBITDAで2.1千万円、正常収益力で3千万円でした。I社は少数精鋭で運営されている老舗の人材会社であり、特にエンジニア採用に強みを持っています。キャンディテイトは常に上級のSEやアプリエンジニアが10名ほどおり、1名あたりで400万円程度の売上を上げています。

 

しかしI社のW社長は年齢50歳で結婚をされていましたが、お子さんがいらっしゃらなかったため、後継者が不在でした。またW社長の今後の目標として、これまで培ってきた人材業界の経験を地方活性化と女性活躍につなげるために、NPOの運営に力を入れていきたいという希望がありました。

 

そこで筆者は早速、大手〜中堅の人材の会社で、IT業界、特にエンジニア採用を強化したいと考えているクライアントをピックアップしました。大手の企業もエンジニア採用には苦戦している所が多く、5社以上が名乗りをあげる結果となりました。

 

最終的に、中堅の人材会社でデザイナー採用に強みがある企業にエンジニア採用を強化してもらうという理由で譲渡を決めました。譲渡価格は1.5億円で、手数料と税金を差し引いてもW社長には1億円以上が残った結果になりました。

 

W社長は現在、東北で震災の復興支援をしながら、東北での新たな働き方・女性の働き方推進の活動をされています。

 

以上のように、人材会社、特にIT系の人材会社には強いニーズが集まっています。好景気の間については、転職者も多いため今後も収益が安定し、M&Aの人気業種になると考えられます。

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