毎年12月半ばに与党により発表される「税制改正大綱」。平成30年度税制大綱では、事業承継税制の改正が大きな目玉の一つになると言われている。今回は、欧米各国における事業継続関連の税制と、日本の事業承継税制の現状を見ていく。

英国の非上場株式の相続税評価額は「100%の評価減」

では、諸外国の税制はどのようになっているのであろうか。

 

たとえば、イギリスにおいては、事業継続のための非上場株式の相続税評価額は100%評価減される。つまり、相続税はかからない。ドイツでは85%の評価減、フランスにおいても75%評価減される。

 

非上場会社株式の相続税を、金融資産や不動産といった他の相続財産に比べて優遇しているのである。各国において、自国の経済力の維持発展を鑑み、円滑な株式の承継を支援する税制上の措置を講じているのである。

 

なお、アメリカにおいては、他の相続財産と同様に相続税が課されるが、相続税には500万ドル(約5億5千万円)の基礎控除(それ以下だと相続税がかからない部分)がある。したがって、相続税課税割合自体が0.1%に過ぎず、そもそも相続税の課税対象者になる可能性が高くない。また、最高相続税率は40%である。

 

一方、我が国においては、基礎控除は「3,000万円+法定相続人数×600万円」で計算される。先ほどのAの相続を例にとると、法定相続人はBとCの二人であるから、基礎控除額は4,200万円となる。また、最高相続税率は55%となっている。中小企業の経営者にとっても、相続税は身近で重大な問題となっている。

日本の現状の事業承継税制は?

これらの他の先進国に歩調を合わせ、我が国においても、平成21年に中小企業経営承継円滑化法に基づく「非上場株式等についての相続税および贈与税の納税猶予・納税免除制度」が制定された。これがいわゆる「事業承継税制」である。平成27年に大幅に改正され、現時点での事業承継税制の主な内容は以下のようになっている。

 

①事業承継税制の対象

 

非上場の中小企業において、代表者かつ筆頭株主の先代経営者から、代表者かつ筆頭株主の後継者への株式の承継を対象とする。

 

②税金の猶予額および免除額

 

相続の場合には、発行済株式数の2/3に達するまでの株式に対して、80%に対応する相続税が猶予される。あくまで、「免除」ではなく「猶予」である。

 

先ほどの、甲社株式について、発行済株式数150株で、評価額が3億円(一株当たり評価額200万円)の場合、通常の相続税額は約7,000万円である。甲社株式のすべてをBが相続した場合(話を簡略化するため遺留分などは考えないものとする)、約7,000万円×2/3×80%=約3,700万円の相続税が猶予されることになる。

 

では、この「猶予」された3,700万円が「免除」されるのはいつか。それは、後継者Bが死亡した場合や、Bが次の後継者に株式を譲渡した場合、甲社が倒産した場合などである。

 

贈与の場合には、発行済株式数の2/3に達するまでの株式に対して、その100%について、贈与税はいったん納税が猶予される。先代経営者が死亡して相続が発生した時点で、猶予された贈与税は免除される。しかし、今度は贈与時の価額により相続税を計算することになる。つまり、贈与税の納付を、相続税の納付まで繰り延べることができる。贈与税の免除を受けた後、相続税の猶予制度の適用を受けることもできる。

 

③事業承継税制の適用条件

 

適用要件で重要なポイントは以下の4点である。

 

ア)経営承継円滑化法に基づく、経済産業大臣の「認定」を受ける。

イ)株式を継続保有する。

ウ)5年間、後継者が代表権を保持する。

エ)5年間平均で相続税開始時の従業員数の80%を維持する。

 

もし、イ)ウ)エ)が満たせなかった場合には、猶予中の税額を利子税と併せて納付しなければならない。

一見ありがたい「相続税・贈与税」の猶予・免除だが…

事業承継税制により、相続税や贈与税が猶予・免除される。経営者にとって、一見、大変ありがたい制度のように見える。しかし、実際には年間で500件程度しか利用されていない。利用されにくい主な理由が以下の3点であり、まさに今回の税制改正大綱で改正が見込まれている点である。これらは中小企業庁や経済産業省からの要望書や日本商工会議所からの意見書に盛り込まれている内容である。

 

①事業承継の対象

 

先代経営者から後継者への一対一の承継を想定している。しかし、兄弟など複数人による承継の場合にも適用できるようにするべきである。

 

②税額免除の猶予額・免除額

 

猶予額は、最大でも、2/3×80%、つまり、50%程度である。裏返せば50%程度は納税する必要がある。発行済株式数の要件や80%の上限を緩和すべきである。また、猶予された税額は、実質的に次の後継者に株式を譲渡するまで免除されない。一定の要件を満たした場合には免除を認めるべきである。

 

③事業承継税制の適用条件

 

1年先を見通すことも困難な経営環境である。特に反発が強いのが、「5年平均で8割の従業員を維持」という要件である。リストラだけではなく、人手不足で働き方改革が叫ばれる中で、従業員の人数を確保し続けるというのは経営の足かせになりかねない。また、代表権や株式を維持しなければならないのでは、経営陣の刷新やM&Aなどの経営戦略を採用しにくくなる。これらの要件は緩和すべきである。

 

 要件が満たせなかった場合には、猶予された税額だけではなく、利子税まで納付しなければならないのではリスクが高い。

 

このような改正の要望がどこまで盛り込まれるか、これから発表される「税制改正大綱」に注目である。

 

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