本連載は、株式会社アセットアシストコンサルタントのCEO兼統括コンサルタントを務める大森雅美氏の著書、『使える! 資金繰り表の作り方』(旬報社)の中から一部を抜粋し、経営管理に有効な「資金繰り表」の活用術と作成方法を紹介します。

全世界共通のモノサシとなる会計ルール上の決算書

本連載は、一言で言うと「資金繰り表を活用した経営管理の勧め」です。「決算書の分析で経営管理をするのは実務にそぐわない」と言う経営者は多いのですが、その気持ちはとてもよく分かります。会社の存続は、「資金の維持ありき」ですから、経営管理の資料も資金繰りが直感的に分かるものがよいのです。その点、決算書分析や会計ルールからの資金繰りシミュレーションは、直感的に誰でも分かるというものではありません。

 

私は、会計ルールでの決算書は、全世界共通のモノサシのようなものだと思っています。ですから、投資家や金融機関にとって、また税務申告においては、公平性があり、適切に判断しやすいモノサシ(基準)となるでしょう。しかし、日常の経営判断においてはどうでしょうか。

 

経営というと、「決算書を基に、年間の目標を設定し、進捗状況を確認して達成に向けて全社で努力していく」というイメージがあります。中堅以上の会社であれば、営業部が事業部ごとに分かれていて、各部門(セクション)の長が、本部経費まで盛り込んだ部門損益を作り進捗を確認しながら会社全体に寄与しているでしょう。また、管理部門は、人事、総務、経理担当と分かれていて、予算の管理と資金繰り管理をしながら会社全体に寄与しているでしょう。経営陣は、現場の長からの資料を確認しながら、会社の方針の決定と、各事象(案件)の決済(判断)をしていきます。

経営管理に活かせる資金繰り表は「転ばぬ先の杖」

では、経営者(トップ)は、何を使って経営判断を行ない、経営戦略を立てているのでしょうか。

 

日常の資料が膨大で、判断することも多いため、会社全体を統合、俯瞰した資料は、月次の残高試算表と、年度の決算書だけという会社も多いはずです。業績が好調なうちはそれでも充分でしょう。しかし、業績が悪化し始めたときに、経営を回復させるためには、経営者にとって、全体を見ながら資金繰り管理をいかに行なうかが最大のポイントになります。業績が悪化したときに安易に借入を起こさないように事業の回復を目指さなければなりません。それには、通常時から統合的な資金繰り表を準備して早期の対応を図れるようにしておくことが重要です。

 

一方、中小企業の多くでは、人や部署も多くないために、営業は売上目標、粗利益目標の達成をめざし、管理部門は人件費をはじめとする各経費予算の管理を行ない、経営者および経営陣は営業から管理まですべてを見ざるをえません。さらに、経営者および経営陣は、現場というより、主に資金繰りにおいて大きな役割を果たしていかなくてはなりません。さまざまな資料を基に経営戦略を立てながら、経営管理をするという綿密な行動は、日常の煩雑さで、とりたくてもとることができないのが実情です。だからこそ、自身で直感的に理解できる資金繰り表を作成しておくべきなのです。

 

私は長年、財務管理面から全体を見ていく方法で多くの会社の経営サポートを続けています。経営者と当事者意識をもって共に歩む方針を貫き通しています。だからこそ、本当に必要なツール(道具)が何なのかが分かってきました。難しいものでなく、シンプルで、直感的にかつ客観的に理解できるもの、それが経営管理に活かしていくことのできる資金繰り表なのです。

 

経営分析を行ない、戦略を立てるために会計知識をつける努力をするのも一つの選択肢ですが、事業を継続、拡大していくためには、ビジネスとしていかに会社に資金を確保するのかが重要です。しかも、中長期を見据えて借入比率を抑えた運転資金の確保と、内部留保の積み上げが重要だと思っています。そのためには、そのための管理ツール(道具)が必要です。ぜひ、経営管理に活かせる資金繰り表を転ばぬ先の杖として活用していただきたいと思います。

使える! 資金繰り表の作り方

使える! 資金繰り表の作り方

大森 雅美

旬報社

これなら直感的にかつ客観的に分かる! 経営陣にとっては、会社の資金計画を明確にして、事業を継続・拡大するための最大の武器となり、投資家、銀行、取引先に対しては第一義的なエビデンスとなるものが「資金繰り表」だ! …

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