M&Aは大企業のものばかりではなく、事業承継に悩む中小企業にとっても、非常に魅力あるスキームです。今回は、売り手から見たM&Aのメリットについて解説します。

大企業だけの経営戦略ではないM&A

本連載では、M&A(企業の買収・合併)のメリット、実例、実際の手続きとその際の注意点などについてまとめていきたいと思います。

 

M&Aは、決して大企業だけの経営戦略ではありません。中小企業にとっても、事業承継に悩むオーナー社長にとって救いの手であるばかりか、魔法の杖であるともいえます。ここでご紹介するのは、親族や従業員ではなく、第三者の企業に会社の株式または事業を譲渡し、買い手となる第三者の企業の資本の下で、会社を存続させていくという手法です。

売り手から見たM&Aのメリットは大きく4つ

売り手から見たM&Aのメリットは以下のようなものです。

 

①従業員の雇用を維持できる

②実現可能性が高い

③企業価値が向上することも多い

④経営者の手残りが一般に多くなる

 

それぞれについてまとめてみましょう。

 

①従業員の雇用を維持できる

 

清算・廃業とは違って会社が存続することから、長年会社に尽くしてくれた従業員の雇用を基本的に守ることができます。例えば「当面は現スタッフの雇用と雇用条件を維持」といった約束が、売り手と買い手の間で交わされることが多く、特に地方の企業が売り手になる場合はその傾向が強まります。さらにいえば、売り手のオーナー社長本人も、半年~1、2年などの間、「顧問」や「相談役」といった肩書で、会社に留まる例も多いのです。

 

その理由としては、取引先や金融機関への引き継ぎなどにあたって前社長がいたほうがスムーズだという買い手側の希望があります。

 

また、完全リタイアではなくしばらくは一定の収入や肩書があったほうがよい、あるいは新資本の下での会社がうまく回るようにしばらく見守っていたい、といった理由から売り手のオーナー社長本人が残留を希望することもあります。

 

②実現可能性が高い

 

株式公開や従業員に事業を承継するMBOに比べれば明らかです。株式公開が極めてハードルが高いことは容易に推察できるでしょうし、中小企業のMBOでは既に触れたように候補となる従業員の絶対数が少ない(通常、経営を任せられる人材は数人程度)うえに、適任者がいても株式を買い受けるだけの資金力がなかったりして実現可能性は低くなります。

 

その点、M&Aを利用すれば、同一地域内の企業だけでなく事業エリアの異なる企業も買い手候補となります。同様に、同一業種だけでなく異業種の企業、また例えば同一業種内での他業態の企業(例えばアパレルのメーカーが売り手となり、アパレルの販売店が買い手となるなど)から買いたいという声がかかることもあります。

 

つまり、M&Aを利用すれば、買い手の候補はグンと増えるということです。もちろん、売り手のオーナー社長が知らない、業務上の付き合いがない企業も候補になります。
極端な例では、海外企業が買い手になることもあります。実際に当社でも、香港の企業と日本の企業をマッチングさせようと動いたことがあります。

 

③企業価値が向上することも多い

 

M&A終了後の企業価値が上がるということです。買い手企業の資本の下に入ることで単純に企業規模が大きくなるばかりか、買い手企業のブランド力や信用力が付加されて、競争力がアップするといった例も目立ちます。特に上場企業や名の知れた大企業に買収されるケースでは、そのグループに入れるということで、残った従業員の勤労意欲が増すばかりか、福利厚生なども充実する傾向にあります。

 

また、製造しか行っていなかった企業が卸や小売といった業態に買収されるようなケースでは、顧客への直接販売ができるようになったりして利益率が上がる例も多いのです。

 


④経営者の手残りが一般に多くなる

 

オーナー社長本人にとっての経済的メリットです。M&Aを利用した場合、一般に「のれん代」という名目で「将来生み出すであろう利益」まで売値に反映されるのです。一方で、清算・廃業を選んだ場合は、「現在(清算時)価値」しか売値に反映されないばかりか、在庫などの資産は買い叩かれてしまうこともあります。

 

売り手のオーナー社長本人にとって、M&Aが魔法の杖であるというわけをご理解いただけたでしょうか。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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