トランプ政権下で「米国の国際競争力」はどうなる?②

前回に引き続き、トランプ政権下で「米国の国際競争力」はどうなるのかを探ります。今回は、パリ協定離脱による影響を考察します。※本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

米国のパリ協定離脱を「遺憾」と発言した企業の真意

前回の続きである。

 

地球温暖化コスト負担に背を向けるということは、エネルギーコストの低下を意味する。これは、マクロ経済的にみれば、米国の経済成長にプラスに働き、国際競争力を改善させることを意味する。

 

現にドイツ自動車連盟は、トランプ大統領のパリ協定離脱を受け、

 

「国際競争力を維持するため、欧州は、より費用効率的で、経済的に実行可能な地球温暖化対策を講ずることが不可避である。競争力の維持は、地球温暖化防止の必要条件であるという点はしばしば見過ごされる。ドイツの電力、エネルギー価格は、既に米国よりも相当高い」

 

との声明を出している。トランプ政権の施策が米国産業界の競争力を損なうのみであれば、欧州の産業界にとっては好都合なはずで、このような声明を出す必要はないだろう。

 

「世界は、低炭素社会に向かっており、巨大な市場が生まれつつある。地球温暖化対策の後退は、米国企業がビジネス機会を捉えることを阻害する」という反論があるだろう。しかし、こうした議論を展開する論者は、必ず「トランプ政権が、どんな後ろ向きな政策をとっても、多くの州政府、市当局、グローバル企業が地球温暖化にコミットしている」と言っている。

 

地球温暖化防止に熱心な市や州、更に世界市場で低炭素製品、技術への需要がどんどん拡大するのであれば、グローバル展開をしている米国企業は、連邦政府の施策にかかわらず、引き続きそうした財、技術の開発を進めるだろう。海外の「巨大な」ビジネス機会を捉えつつ、国内では、法人税減税を含む政策環境、エネルギーコストの低下を享受できる。

 

ドイツが行っていた高コストの再生可能エネルギー固定価格買取制度の最大の受益者は、中国のソーラーパネル産業であった。米国産業が厳しい地球温暖化対策を講ずる国において、同様のビジネス機会を享受する可能性は十分あり、米国は文字どおりフリーライダーの便益を得るわけである。

 

多くのグローバル企業のCEOが米国のパリ協定離脱を遺憾とするコメントを発表している、筆者は、その相当部分がビジネス面の悪影響を本気で懸念しているというよりも、企業イメージ保全の観点が大きいと感じている。

 

これらの企業も、米国のエネルギーコストが低下すれば、便益を被ることになる。そのうえで、地球温暖化に懐疑的な企業であるとの攻撃を受けないために、パリ協定支持を表明したと考えるほうが自然だろう。

 

トランプ政策は、短期的には競争力のプラスになり得る

このようにトランプ政権の施策は良し悪しはともかく、短期的には米国経済のコスト低下をもたらすため、競争力にはプラスになり得る。他方、筆者がモニーツ前長官の寄稿で強く賛同するのは、トランプ政権の科学技術軽視が中長期の競争力に与える悪影響である。

 

もともと米国は、グリーン技術に一定の強みを有している。特許庁の2006~2014年のグリーンイノベーション関連技術の出願人国籍別特許公開件数を見ると、米国は、日本、中国に次いで第3位であるが、最近は中国の伸長が著しい。

 

世界が趨勢として脱炭素化に向かおうとすることが確実ではあるが、従来型の技術の延長ではパリ協定が目指す温度安定化をもたらすような大幅削減には不十分であり、革新的技術開発が不可欠だ。

 

これらの技術は、リスクが高く、長いリードタイムを要するため、政府によるR&D予算の支援が必要になる。他方、トランプ政権が予算教書のなかで、エネルギーR&D予算をばっさり切っている。このままでは、中長期の米国のイノベーション力に悪影響を与えることになるだろう。

 

共和党は、伝統的に地球温暖化対策として排出量取引のような管理経済的措置よりも、技術開発を重視しており、トランプ政権の技術軽視は、こうした共和党の路線と異なっている。エネルギーR&D予算については、下院、上院の関連委員会で上積みがなされつつあり、中期的な競争力という点で良いニュースである。

 

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連載トランプ政権でどうなる!?「米国のエネルギーセクター」の行方

東京大学公共政策大学院 教授

1959年生まれ。1982年、東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。2002年に国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、2006年に資源エネルギー庁国際課長、2007年に国際交渉担当参事官、2008年に大臣官房地球環境担当審議官、2011年に日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所長兼経済産業省地球環境問題特別調査員を経て、2015年8月より東京大学公共政策大学院教授、現職。

国際大学客員教授、21世紀政策研究所研究主幹、アジア太平洋研究所上席研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)シニアポリシーフェローも兼務。気候変動枠組条約締約国会議(COP)にはこれまで12回参加。

主な著書に『精神論抜きの地球温暖化対策―パリ協定とその後』(2016年、エネルギーフォーラム)、『地球温暖化交渉の真実-国益をかけた経済戦争』(2015年、中央公論新社)など。

著者紹介

トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化

トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化

有馬 純

エネルギーフォーラム

本書では、パリ協定離脱を巡る政権の内幕を探ります。また、トランプ政権の下で米国のエネルギーセクターはどうなるのかなど、トランプ政権のエネルギー政策について冷静に分析した一冊となっています。

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