今回は、トランプ政権下における「再生可能エネルギー」の位置づけを見ていきます。※本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

再生可能エネルギーへの「ネガティブな政策」はない

トランプ氏が米国大統領選に勝利したあと、石油、ガス、石炭などの化石燃料関連企業の株価が上昇した一方、ファーストソーラーやエクセロンなど、再生可能エネルギー関連企業の株価が低下した。トランプ政権が化石燃料を推進する一方で、再生可能エネルギーの補助金カットなどの施策をとることが懸念されたのであろう。

 

しかし、トランプ政権のエネルギー政策の根幹は、国内化石エネルギー生産の制約要因を取り除くことであり、再生可能エネルギーに対して特段ネガティブな政策を講じているわけではない。

 

前回紹介したEIAのエネルギー見通しを見ると、レファレンスケースでは、クリーン・パワー・プラン州のRPS(再生可能エネルギーポートフォリオ基準)によって、太陽光発電、風力発電を中心に再生可能エネルギー発電が拡大することが見込まれている。

 

もちろん、クリーン・パワー・プランを廃止する結果、既存石炭火力発電所の閉鎖が遅れることになるため、その分、天然ガスや再生可能エネルギー発電の伸びは鈍化する。

 

EIAは、クリーン・パワー・プランを実施しない場合、レファレンスケースに比して、ガス火力発電が石炭火力発電を追い抜くタイミングが10年近く遅れ、2030年より前に石炭火力発電を追い抜くとされていた再生可能エネルギー発電の伸びも緩やかになるとのシナリオを提示している。

 

しかし、コスト低下により、再生可能エネルギーが今後も伸びることには、変わりはない。

再生可能エネルギー拡大の趨勢は今後も変わらず

また、再生可能エネルギー推進策も逆ねじが巻かれるわけではない。2016年12月に連邦レベルの再生可能エネルギー支援策である太陽光発電へのPTC(生産減税)と風力発電へのITC(投資減税)の5年間延長が米議会で承認されたが、これはトランプ政権の下でも、そのまま引き継がれる。

 

選挙におけるトランプ勝利州と州別の風力設備容量を比較すると、全米最大の風力容量を有するペリーエネルギー長官の出身であるテキサス州をはじめ、トランプ勝利州のなかには、風力発電が盛んな州も多い。また、多くの州がRPSもしくは再生可能エネルギー導入目標を設定しており、これも継続される。

 

また、先に紹介したピュー・リサーチ・センターの調査によれば、石炭やフラッキングについては、民主党、共和党間の党派対立が目立つが、太陽光発電、風力発電については、保守的な共和党支持者の8割、リベラルな民主党支持者の9割以上が支持している。

 

したがって、石炭を中心に化石燃料を不利にする施策を取らない分、再生可能エネルギーの相対的な競争関係は悪化することはあっても、再生可能エネルギーが拡大する趨勢(すうせい)は、トランプ政権においても変わらないであろう。

 

[図表1]再生可能エネルギー発電見通し

出所:米国エネルギー情報局「年次エネルギー見通し(2017)」
出所:米国エネルギー情報局「年次エネルギー見通し(2017)」

 

[図表2] 燃料別発電量見通し(レファレンスケースとクリーン・パワー・プラン不実施ケース)

米国エネルギー情報局「年次エネルギー見通し(2017)」
米国エネルギー情報局「年次エネルギー見通し(2017)」

 

[図表3] RPSもしくは再生可能エネルギー目標を設定している州

 

トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

有馬 純

エネルギーフォーラム

本書では、パリ協定離脱を巡る政権の内幕を探ります。また、トランプ政権の下で米国のエネルギーセクターはどうなるのかなど、トランプ政権のエネルギー政策について冷静に分析した一冊となっています。

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