今回は、トランプ大統領が公言する「米国の石炭産業の復活」の可能性について探ります。※本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

石炭消費の減少傾向に「歯止めがかかる程度」!?

トランプ大統領が機会あるごとに口にするのが、石炭労働者への配慮であり、石炭産業の復活である。WOTUSの撤回やクリーン・パワー・プランの廃止は、それを企図したものである。

 

しかし、これらの施策によってトランプ大統領が公約している石炭産業の復活が、実現する可能性は低い。石炭産業自身、「過度な楽観論は禁物」と考えているとの報道もある。

 

発電部門において石炭需要が減ってきたのは、クリーン・パワー・プランが原因ではなく、競争力のあるシェールガスが石炭を駆逐してきたからであり、トランプ政権もガスとの競争力を回復するために、石炭産業に補助金を出すことまでは考えていないとされる。

 

EIAの見通しでは、今後の石炭生産、発電部門における石炭消費の見通しを、クリーン・パワー・プランが実施されるケースと実施されないケースに分けて提示しているが、仮にクリーン・パワー・プランが実施されないとしても、減少傾向に歯止めがかかる程度であり、2005年のピーク時には戻らないと見込まれている。

 

2006年時点の石炭需要見通しと2016年時点の実績を比較し、需要減を要因別に分析すると天然ガスへの需要シフトが49%、予想を下回る需要が26%、再生可能エネルギーのコスト低下が18%とされ、規制の影響は3~5%という分析もある。

現実的には難しい「石炭セクター」の雇用回復

また、石炭生産の下落傾向に歯止めをかけられたとしても、石炭セクターの雇用回復は別問題だ。2011年から2016年だけで5万8000人の雇用が失われている。

 

シェールガスとの競争に悩む米国石炭産業は、生産コストの高いアパラチアから生産コストの安いイリノイ、ワイオミングに生産の重点をシフトしており、大規模露天掘りの炭鉱は雇用集約度が低い。このため、「仕事に戻れるようにする」というトランプ大統領の選挙公約が実現できる可能性は低い。

 

国内で需要増加が期待できないとすると、輸出増大に期待がかかる。しかし、これまで世界の石炭需要拡大を牽引してきた中国が、2017年1月に85もの石炭火力発電所の新設計画をキャンセルしたために、一般炭の価格は低下している。

 

加えて、今後の石炭需要拡大の大宗を占めるアジア地域への輸出の玄関口となる太平洋岸の諸州は、石炭積み出し港の建設をブロックしている。

 

メキシコ湾から積み出し、パナマ運河を通って太平洋に出る、カナダに鉄道輸送してカナダから積み出すなどの方法は可能だが、輸送コストが割高になるため、豪州炭などとの競争は容易ではない。石炭輸出拡大は、容易ではなさそうだ。

 

[図表]石炭生産及び電力部門の石炭消費の見通し(クリーン・パワー・プラン実施・未実施の場合)

石炭生産及び電力部門の石炭消費見通し
(クリーン・パワー・プラン実施・不実施の場合)
出所:米国エネルギー情報局「年次エネルギー見通し(2017)」
出所:米国エネルギー情報局「年次エネルギー見通し(2017)」
トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

トランプ・リスク──米国第一主義と地球温暖化

有馬 純

エネルギーフォーラム

本書では、パリ協定離脱を巡る政権の内幕を探ります。また、トランプ政権の下で米国のエネルギーセクターはどうなるのかなど、トランプ政権のエネルギー政策について冷静に分析した一冊となっています。

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