「現物買い」と「信用売り」のリスクは等しい
信用取引、特にカラ売りはコワいけど、現物なら安全──。
多くの人が、こういう認識をもっているが、たとえ現物の買いであっても大損する可能性はある。
2010年には、国営と呼んでもおかしくない存在の日本航空(JAL)が会社更生手続きを申し立て、株の価値はゼロになった。企業再生支援機構のサポートで再生され、現在は業績も安定しているが、金融機関は5,000億円に上る債権を放棄し(債権放棄割合は87.5%)、元々の株主は投資した全額を失ったのである。
同様に、実質的に準国営で、「手堅く」「営業損など出るはずのない構造の企業」だった東京電力は、2011年3月に起きた東日本大震災による津波で福島原発が事故を起こし、株価は大暴落した。
カラ売りで持ち上げられたら青天井というが、例えば小型の銘柄が買い上げられた状況で、対立するように勝負を挑むから“カラ売りの恐怖”が生まれるだけである。自由意思で銘柄を選び、日々の株価を見ながら自由意思で対応するかぎり、現物買いと信用売りのリスクは等しいと考えるべきだ。
第3章(※書籍参照)で説明した「塩漬け」が、最も恐ろしい。安全な気がするだけで、実は大切な資金を寝かしながらリスクにさらし、チャンスをつぶしているからだ。「現物なら安全」とは、銘柄を勧めた証券会社が、顧客に先送りを受け入れさせるときの“セールストーク”だ。
「証券会社が悪の存在だ」などという否定論ではなく、単なる構造上のことで、証券会社と投資家は同じ社会(コミュニティ)に共存・共栄するのだが、究極は“やる側”と“やらせる側”としての対立関係にあるという認識が重要だ。
このように、ものごとの本質を考えたい。うねり取りを実践するプレーヤーは、混沌としたマーケットの中で堂々と自立する存在である。誤った認識、与えられてうっかり“受け入れて”しまったジョーシキを、自分の力で修正しながら前に進みたいのだ。
「いつ終わるかわからない」上げ相場の恐怖とは?
もちろん、守りを固めるために「最悪の事態を想定する」ことだが、突発的な事件だけでなく、うねり取りで狙う通常の上げ下げについて、上げ相場で買うことと下げ相場でカラ売りすることを比較するのが、この項の目的だ。
実は、「カラ売りのほうがやさしい」という実践者の常識がある。上げ相場は、人気量の増加によるものだから、その増加の速度が落ちると上がらなくなり、そのあとは自然に株価が下がってしまう。
引力に逆らって物を持ち上げたあと、その力を抜けば、物は床に落ちてしまうのと同じである。買い方の増加で株価が上がり、買い方の増加が鈍ることで下がるのが相場というものだ。
つまり、下げ相場は売り方(カラ売り筋)が引き起こす動きではないということだ。実践者としては、上げ相場には「いつ終わるかわからない」という恐ろしさがある、と考えるべきだ。
逆に下げ相場は、いったん持ち上げられた株価が引力に引っ張られるように“定位置”に戻っていく動きだ。ひとたび下げ始めると、一時的な急反発をみせる場面があるものの、上げ相場を望む多くの人の意思に反してダラダラと長く続く。
カラ売りの仕掛けは高値圏の荒い動きの中で行うから、スタートの難しさはある。だが、いったん下げトレンドに乗ってしまえば、上げ相場のように「いつ終わるか」と警戒する必要はないのだ。
これが、世間のジョーシキに反する、実践者の常識である。
儲けることを想像するがゆえに、盲点が生まれたり、誤った考え方をうっかり受け入れてしまうが、マーケットと少しだけ距離をおいて考えてみると、いろいろな観点に気づく。
最後は「売り」と「買い」を実行するだけなのだが、プレーヤーの自分を、自分自身で管理して誘導するためには、「なぜ値動きが起こるのか」というような、傍観者、研究者の視点も重要だ。