ノベル版『女騎士、経理になる。』~第3章その⑱

原作:Rootport
イラスト:こちも
提供:デンシバーズ
ノベル版『女騎士、経理になる。』~第3章その⑱

幻冬舎コミックス運営のWEBマンガ雑誌「デンシバーズ」と幻冬舎ゴールドオンラインによる特別コラボ企画。デンシバーズの好評連載『女騎士、経理になる。』の原作小説で、2016年6月24日に発売された単行本『女騎士、経理になる。①鋳造された自由』のプロローグと第1章、第2章、第3章を無料公開します。今回は第3章「リテラシー」その⑱です。

▼翌朝、港町

 

ドタドタ……バタンッ

 

女騎士「失礼するのだ!」
支店長「……いったい何の騒ぎだね?」

 

秘書「誰かと思えば、昨日の3人ではありませんか」

 

女騎士「今日はグーテンベルクさんの工房について話があって来た。忙しいところ恐縮だが聞いてもらおう」

 

支店長「ほう、あのドワーフの?」

 

女騎士「先月の利益の50%の金額を返済しろ、さもなくば融資を打ち切る──。これがお前たちの出した条件だな?」

 

支店長「わしらがどんな契約を結ぼうと貴行には関係ない」

 

秘書「私としても心苦しいのですが、その条件でないと本店が審査を通してくれないのです」

 

黒エルフ「まったく……横暴ね」

司祭補「では、もしもその利益の計算が間違っているとしたら、どうかしらぁ?」

 

支店長「利益の額が違うだと……?」

秘書「興味深いですね。どういう意味でしょう?」

 

女騎士「ふふふ……よくぞ聞いてくれた!」

 

バァーン!!

 

女騎士「この財務諸表を見るのだ。グーテンベルクさんの帳簿には、減価償却費が反映されていなかったのだ。これを修正すれば、利益は6千200Gから3千200Gに圧縮される」

 

 

黒エルフ「……」
女騎士「すると、帝都銀行への返済額はその50%の1千600Gになる!」

 

秘書「ほう、それで?」

 

女騎士「減価償却費は現金の減らない費用だ。PLの利益が変わっても、現金は減らない。持ち越せる現金残高は4千600Gになる。この金額なら、先月よりもたくさんの本を印刷できる。グーテンベルクさんは商売を大きくできるというわけだ」

 

秘書「なるほど、面白いですね……」
支店長「ううむ」

 

秘書「……しかし、だから何なのですか?」
女騎士「は?」

 

秘書「グーテンベルクさんには、私どもの計算したとおり3千100Gを払っていただきます」

 

女騎士「だからその計算は間違って──」
秘書「あなたがたの計算方法など知りませんよ」

 

黒エルフ「……やっぱり、そうなるわよね」アチャー
司祭補「どういうことですの?」

 

秘書「あなたがたがどんな会計基準を採用しようと自由です。しかし、私たちの銀行との取引には、私たちの決めた方法で利益を計算していただきます」

 

女騎士「なん、だと……?」
支店長「ふふふ、同じ町で働くよしみだ。特別にわしらの契約書を見せてやろう」

 

ぱさっ

 

女騎士「……1ヶ月の利益とは、その月に入金された額から、その月に出金した額を引いた金額とする……だと?」

 

秘書「ええ。それがグーテンベルクさんと取り交わした契約書の細則です。その計算方法なら、先月の利益は6千200Gになります」

 

黒エルフ「いわゆる『現金主義』という計算方法ね」
女騎士「なんだ、それは?」

 

黒エルフ「固定資産を計上して減価償却する方法は、カネを払ったときではなく、実際にその資産を使ったときに費用を計上するわ。いわゆる『発生主義』という計算方法よ。これに対して、カネの出入りだけに基づいて計算する方法が『現金主義』……」

 

司祭補「おこづかい帳と同じ計算方法ですわね」

 

黒エルフ「現金主義で計算することが契約書に明記されている以上、あたしたちには手が出せないわ。残念だけど」

 

女騎士「そ、そんな……!」
司祭補「では、グーテンベルクさんは……?」

 

秘書「さあ? 商才を磨いて頑張ればいいのでは?」
支店長「話は終わりだ。帰ってくれ」

 

女騎士「ぐ、ぐぅ……」

女騎士、経理になる。 ①鋳造された自由

女騎士、経理になる。 ①鋳造された自由

原作:Rootport,イラスト:こちも

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