▼翌朝、港町
ドタドタ……バタンッ
女騎士「失礼するのだ!」
支店長「……いったい何の騒ぎだね?」
秘書「誰かと思えば、昨日の3人ではありませんか」
女騎士「今日はグーテンベルクさんの工房について話があって来た。忙しいところ恐縮だが聞いてもらおう」
支店長「ほう、あのドワーフの?」
女騎士「先月の利益の50%の金額を返済しろ、さもなくば融資を打ち切る──。これがお前たちの出した条件だな?」
支店長「わしらがどんな契約を結ぼうと貴行には関係ない」
秘書「私としても心苦しいのですが、その条件でないと本店が審査を通してくれないのです」
黒エルフ「まったく……横暴ね」
司祭補「では、もしもその利益の計算が間違っているとしたら、どうかしらぁ?」
支店長「利益の額が違うだと……?」
秘書「興味深いですね。どういう意味でしょう?」
女騎士「ふふふ……よくぞ聞いてくれた!」
バァーン!!
女騎士「この財務諸表を見るのだ。グーテンベルクさんの帳簿には、減価償却費が反映されていなかったのだ。これを修正すれば、利益は6千200Gから3千200Gに圧縮される」
黒エルフ「……」
女騎士「すると、帝都銀行への返済額はその50%の1千600Gになる!」
秘書「ほう、それで?」
女騎士「減価償却費は現金の減らない費用だ。PLの利益が変わっても、現金は減らない。持ち越せる現金残高は4千600Gになる。この金額なら、先月よりもたくさんの本を印刷できる。グーテンベルクさんは商売を大きくできるというわけだ」
秘書「なるほど、面白いですね……」
支店長「ううむ」
秘書「……しかし、だから何なのですか?」
女騎士「は?」
秘書「グーテンベルクさんには、私どもの計算したとおり3千100Gを払っていただきます」
女騎士「だからその計算は間違って──」
秘書「あなたがたの計算方法など知りませんよ」
黒エルフ「……やっぱり、そうなるわよね」アチャー
司祭補「どういうことですの?」
秘書「あなたがたがどんな会計基準を採用しようと自由です。しかし、私たちの銀行との取引には、私たちの決めた方法で利益を計算していただきます」
女騎士「なん、だと……?」
支店長「ふふふ、同じ町で働くよしみだ。特別にわしらの契約書を見せてやろう」
ぱさっ
女騎士「……1ヶ月の利益とは、その月に入金された額から、その月に出金した額を引いた金額とする……だと?」
秘書「ええ。それがグーテンベルクさんと取り交わした契約書の細則です。その計算方法なら、先月の利益は6千200Gになります」
黒エルフ「いわゆる『現金主義』という計算方法ね」
女騎士「なんだ、それは?」
黒エルフ「固定資産を計上して減価償却する方法は、カネを払ったときではなく、実際にその資産を使ったときに費用を計上するわ。いわゆる『発生主義』という計算方法よ。これに対して、カネの出入りだけに基づいて計算する方法が『現金主義』……」
司祭補「おこづかい帳と同じ計算方法ですわね」
黒エルフ「現金主義で計算することが契約書に明記されている以上、あたしたちには手が出せないわ。残念だけど」
女騎士「そ、そんな……!」
司祭補「では、グーテンベルクさんは……?」
秘書「さあ? 商才を磨いて頑張ればいいのでは?」
支店長「話は終わりだ。帰ってくれ」
女騎士「ぐ、ぐぅ……」