前回は、誤解している人が多い、米国のESTAの使用条件について説明しました。今回は、アメリカで不動産を購入するなど、アメリカ経済に貢献する行為が、入国審査に影響するかどうかを見ていきます。

「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
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所有するハワイのマンションに頻繁に訪れていた社長

Cさんは、都内近郊に工場を持つバネル製造会社の社長です。3年前、ホノルルに1億円でマンションの一室を購入し、GWや冬休みを利用して短期の別荘滞在を満喫していました。しかし、時間が経過するとともに、頻繁にハワイを訪問するようになり、最初は1週間程度だったものが、次第に2週間、そして1か月と、滞在期間が長期にわたるようになってきました。社長自ら取引先と商談したり、工場視察することはあるものの、1か月くらいなら、製造部長や営業部長に任せておくことができるからです。

 

そして迎えた入国審査。

 

審査官「ずいぶん頻繁にハワイに来てますね」

Cさん「ええ。気候もいいし、ハワイの人はみんなフレンドリーだし、大好きなんです」

 

審査官「ここ3年間、いつも同じマンションに滞在しているみたいですが、このマンションの所有者は誰ですか?」

Cさん「ああ、私です。3年前に購入しまして」

 

審査官「そうですか・・・。お仕事は何をされていますか?」

Cさん「ちょっと待ってくれ、なんでそんなこと根ほり葉ほり聞くんですか。マンションを所有してちゃ悪いんですか」

 

審査官「質問に答えて下さい」

Cさん「失礼な! 私は、あなたの国に1億円も落として家を買ってるんですよ。滞在期間中も高級レストランで食事もするし、タクシーにも乗るし、経済的にたくさん貢献しているんだ。こんな扱いはおかしいんじゃないですか!」

 

審査官「Cさん、あなたの入国を拒否します」

Cさん「そ、そんな! ふざけるな~!!」

審査官が危惧した「アメリカに住み着く可能性」

何度も同じ場所に宿泊しており、しかもそれがホテルではないということになれば、入国審査官は、次のように考えます。

 

(1)このマンションの所有者はCさんである。

(2)このマンションの所有者は、Cさんと特別の繋がりのある人間である。

 

上記(1)(2)いずれの場合も、Cさんとアメリカの強い繋がりを示す事実となります。そして、Cさんがアメリカと強い繋がりがあるという事実は、Cさんがアメリカから帰らない可能性を示唆することになります。つまり、前回のコラムでご説明した「移住(住み着く)のおそれ」を匂わせることになるのです。

 

 

このため審査官は、Cさんに対して、さらなる質問が必要と考え、「仕事は何をしているのか」という質問を発しました。もしCさんが、例えば不動産投資業などで稼いでおり、どこにいても電話一本で仕事ができる状況であれば、ますます移住の可能性が高いと判断せざるを得ません。しかし、日本に戻って行わなければならない重要な仕事があるなら、移住のおそれは払しょくされるわけです。

 

Cさんは、1か月であれば、自分の仕事を製造部長と営業部長に任せておくことができますが、その後は自ら取引先に出向いて重要な商談をまとめ、また自らの目で工場を視察して工場の生産性を維持しなければなりませんでした。このことをちゃんと丁寧に説明していれば、入国拒否に遭うことなどなかったでしょう。

米国に不動産を所有していても「優遇措置」はない

しかし、Cさんはここで大きな誤解をしてしまっていました。入国審査官から別荘の指摘を受けた際、外国人観光客がどれだけ日本でお金をつかっているかを取り上げたニュースを日本で見たことを思い出しました。そして、自分はハワイに億単位の不動産を購入し、さらに現地での滞在期間中、相当のお金を使っているのだから、自分はアメリカに相当な経済貢献をしていると考えました。そしてそれを声高らかに、入国審査官に訴えたのです。

 

ところで、一度立ち止まって考えてみましょう。Cさんの購入したマンションの価格が上昇したとします。これを売却して儲けるのは誰でしょう? アメリカではなくCさんです。アメリカで不動産を購入すること自体は全く問題ありませんが、それはあくまで自分のためであって、これによって移民法上何らかの優遇措置があるわけでは決してないのです。

 

全4回にわけて、どのような誤解が入国拒否を招いてしまうのかについてご紹介しました。逆に言えば、このような誤解を捨てることによって、入国拒否の可能性を低くすることができるということなのです。

 

 

 

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本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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