公式統計では縮小傾向の中朝貿易・・・断片的な情報が錯綜
中国側の公式統計は海関(税関)と商務部の統計になるが、金額的に北朝鮮は主要貿易相手国と見なされていないため、いずれも対北朝鮮貿易の詳細を明らかにしていない。輸出と輸入の総額のみ海関統計月報に記載があり、それによると、貿易総額は2013年に65.4億ドルとピークを打った後に減少。
今年に入ってからも輸入は低下傾向だが、5月以降増減し1〜7月累計は10.4億ドル(対前年同期比16.3%減)。輸出は月ごとに増減を繰り返し19.7億ドル(同32.5%増)、貿易総額10.2%増(人民元ベースでは輸出39.9%増、輸入11.7%減、貿易合計16.3%増)だ(図表1)。
[図表1]中国対北朝鮮貿易(単位:億米ドル)
なお前年同期比はいずれも2017年8月発表数値で、月報の前年同期数値を基に算出した場合と必ずしも一致しない。月次数値合計と累計に誤差がある点も含め、中国海関に照会したが回答はなく、詳細不明だ。輸出入の品目別詳細を示す体系的な統計は少なくともウェブ上では公開されておらず、断片的な情報が錯綜している(図表2)。
[図表2]北朝鮮から見た重要物資の流れ
大韓貿易振興公社(KOTRA)北京代表処によると、2013年北朝鮮の第3回核実験、張成沢問題などの政治要因を受け、2015年は北朝鮮からの鉄鉱石輸入が7.28億ドル(前年比6割強減)と大幅に減少。また、北朝鮮向け石油輸出も2014年1月から24カ月間、海関統計上ゼロとなった。ただこの間、北朝鮮で石油ひっ迫による異常な状況は見られず、海関が無償援助や長期低利融資での石油供給を輸出に計上しなくなっただけで、実際には以前同様、石油輸出が続いていたとの憶測もある(2016年11月10日付『縦覧中国』)。KOTRA推計では2015年が52.5万トン、前年比5%増だ(4月14日付『財経頭条』)。
なお北朝鮮の石油対外依存について、大半を中国に依存しているとの見方がある一方、近年は中国、ロシア、イランからそれぞれ年間40万〜50万トンを輸入しており依存度は3分の1ずつだとするものまで様々な見方がある。例えば、ロシア側の最近の統計では、2017年1〜3月の対北朝鮮貿易は前年比85%増、うち大半はエネルギー関連商品の輸出で3141万ドルで、前年比133%増の大幅増(6月9日付『阿波羅新聞網』)。また「90年代から現在に至るまで、シンガポールの石油仲介会社を通じ、ロシアから毎年20万〜30万トンの石油を輸入している」との朝鮮労働党元幹部の証言が伝えられている(6月28日付『多維新聞』)。
北朝鮮への国連制裁決議 中国は本気なのか?
2016年は北朝鮮からの輸入を制限する国連制裁決議が2度あったが、民生用・人道上必要なものは適用外とされ、中国の北朝鮮からの輸入も鉱物資源が14.5億ドル(前年比11.1%増)、うち鉄鉱石2.3%増、石炭11.8億ドル(同12.5%増、数量ベースでは2250万トン、14.5%増)とむしろ増加した(韓国鉱物資源公社報告として2月11日付『観察網報道』)。韓国政府推計では、近年、北朝鮮の対外輸出の34〜40%は石炭で、その大半は中国向けだ。また16年は、中国から9.6万トンのガソリン、4.5万トンのディーゼル油(両者合計6400万ドル)が輸出された(6月28日付『ロイター中文版』)。
その後、北朝鮮の石油に関する近況として、価格が4月から5月にかけ70%以上高騰したものの、そもそも価格に敏感ではない統制経済下であることもあってか、首都・平壌の日常に表向き変化はないが、周辺地域のほとんどのガソリンスタンドでは購入制限が課せられている(5月27日付『参考消息』他)。さらに6月、対北朝鮮への燃料関連の輸出で大半を手掛ける中国石油天然気集団(ペトロチャイナ)が暫定的に輸出を停止したと伝えられた(『ロイター中国語版』)。その後7月には、朝鮮社会科学院経済研究所長が外国メディアに対し、4月以降の価格が1.5倍に上昇し、高水準に張り付いていることを認めたと伝えられている(7月11日付『希望之声』)。
また今年の4月13日、海関総署は17年第1四半期の通関統計発表記者会見で、記者(シンガポール連合ニュース、CNN)の質問に答える形で、「国連安保理決議を忠実に履行することが中国の立場」とし、17年第1四半期の北朝鮮からの石炭輸入は267.8万トン(前年同期比51.6%減)だが、安保理決議に基づき、2月19日以降輸入を停止したと述べた。この点は7月、上半期貿易実績発表の記者会見でも、停止措置が続いている旨の発言がある。
他方、北朝鮮のもうひとつの外貨獲得主力輸出品である鉄鉱石の輸入は、1〜5月で前年同月比4倍と急増した後、6月は前年同期比1.7%減、上半期の実績は8604万ドルで、前年同期比2.4倍となった(海関データとして各誌報道)。
石炭も、中国当局の輸入停止発表にも関わらず、実際には中朝国境付近で石炭を搭載した車両、貨物列車が中国に向かっているとの目撃情報が伝えられている(5月23日付『新唐人』)。これらの情報からは、中国が貿易を通じた圧力をどの程度本気で強化しようとしているのか、なお未知数だ。
2017年上期の対朝貿易が前年比で増加していることに関して、中国外交部報道官は「国連制裁決議は全面的な経済制裁ではない」「中朝が正常な経済貿易関係を維持することは、決議に違反するものではない」と述べているが(7月13日外交部記者会見)、「国連制裁決議に違反はしていないとしても、その趣旨に反している」「統計数値をごまかしているのではないか」といった声がくすぶる(5月24日付『大紀元』他)。
王毅中国外相は8月、安保理での追加制裁決議に賛成したことに関連し、「北朝鮮との伝統的経済関係を考えると、制裁実行で代価を払う主要国は中国になるが、中国は制裁を厳格に実行していく」と述べ、その後、商務部が正式に「石炭、鉄、鉄鉱石、鉛、鉛鉱石、海産物の輸入を全面禁止する」との公告を発出した。
他方で、①北朝鮮経済は度重なる制裁を経て、制裁に対する耐久性が増している(韓国中銀推計では16年の北朝鮮成長率は3.9%で99年6.1%以来の高成長)、②制裁でまず打撃を受けるのは軍事部門ではないとして、その効果を疑問視する見方もある。
中国はロシアとともに決議に反対はしなかったが、制裁の目的は北朝鮮経済の息の根を止めることではなく、あくまで対話・交渉が重要な解決手段であることは付帯決議からも明らかとの立場を対外的に発信している(8月10日付『人民日報海外版』)。
また、8月の安保理決議には北朝鮮労働者の受け入れ制限措置も含まれているが、主として中国東北部で働く北朝鮮労働者について、労務契約を中止する、あるいは北朝鮮からの労働者受け入れを停止するといった措置は今のところ公表されていない(韓国のある推計によると、北朝鮮は現在40か国以上に約5万人の労働者を外貨獲得のため派遣しているという。8月15日付『自由亜洲電台』)。