中国内で高まりつつある「北朝鮮抛棄論」
中国最大の検索サイト「百度」で「棄朝鮮」「厭(嫌う)朝鮮」を検索すると、17年8月現在、各々関連サイト約8万件、2千件がヒットする。
社会科学院アジア太平洋グローバル戦略研究院(旧アジア太平洋研究所)の王俊生研究員はその論文の中で、11年末金正恩政権誕生以降、「棄朝鮮」「厭朝鮮」関連の論調が多く見られるようになっているが、13〜14年頃に比べ近年は、①各種媒体で幅広く公然と議論されていること、②これまで中国メディアは北朝鮮最高指導者を公然と批判することは控えていたが、近年はそうではない点が異なるとしている。
また同論文は韓国朴槿恵政権時代に発表されたもので、情勢はやや異なってきているが、①中韓関係が急速に改善し「蜜月時代」を迎えていること、②米韓は短期的には「北朝鮮崩壊」が現実のものになる可能性はきわめて小さいとする一方で、米韓関係の中で「北朝鮮崩壊」「朝韓統一」が具体的な政策上の話題になってきていることから、中国内でも「北朝鮮抛棄論」が以前に比べより大きな世論と政策上の基礎を有するようになっているとの見方を示している(『東北亜論壇』2016年第1期)。
北朝鮮を「一帯一路」国際会議に招いた中国の思惑
他方、こうした「棄朝」「厭朝」、さらには「亡朝」の高まりに対し、中国内で慎重な見方もある。曹世功中国亜太学会朝鮮半島研究会委員は、北朝鮮問題に関し3つの偏った論調があるとし、
①核・ミサイル開発という1つの問題を捉えて中朝関係全体を見直すべきだというのは偏っており、その影響は単に1つの「戦略緩衝地区」を失うに止まらず、歴史的な両国関係、朝鮮半島での中国の戦略的利益に重大な影響を及ぼす
②北朝鮮核開発問題の根源には米朝関係があり、中国が消極的なので問題が解決しないというのは責任転嫁の議論で、中国ができることには限りがある
③北朝鮮の核保有に対する意識は強固なため、話し合いではなく武力行使による解決が最も即効性が高いとする見方があるが、北朝鮮が完全に核武装するまでには相当の時間が必要で、話し合いの時間はなお残されている、武力行使の影響を考えると、話し合いを模索すべき
だと指摘している(4月20日付『環球時報』)。
中国当局の意識として、「金正恩政権を仮に見捨てるとしても、倒れることは望んでおらず、強く出て、言いがかりをつけられ反撃される(反咬一口)事態も避けたい」ということも言われている(5月23日付『新唐人』)。
経済面で言えば「人参」、つまり経済改革、外資導入等に協力するという「アメ」と、「大棒」、つまり制裁の強化をどう使い分けていくかということになる。
5月、北京で開催された初の「一帯一路」国際会議に、米国の反対にも関わらず北朝鮮を招待したことは、「人参」の新たな展開のひとつだろう。縮小しているが、完全にストップしているわけでもなく、水面下で情報が錯綜する対朝貿易投資の状況は、中国の北朝鮮に対する微妙な意識の反映でもある。
国際社会による制裁強化だけでは、事態は悪化の一途か
金正恩委員長が核・ミサイル開発に固執する理由は、それが国内的に体制を支える基礎であることに加え、国際社会に脅威を与え、その地位を認知させる(言い換えれば、国際社会から注目を浴びたい)ためだ。
特に、米国が北朝鮮の体制を変革しようとする圧力をかけてきた場合に、核保有が抑止力になると考えているとすれば、かつて核放棄を宣言し、米国等欧米と融和を図ったリビアのカダフィ大佐のその後をよく見ている(米国等の要求を受け入れても、自身のその後が安泰である保障はどこにもない)という意味で、金正恩委員長が実は「先をよく見る」「合理的で論理的な帰結を追求する」人物であることを示す証左だとの見方もある(6月3日付米誌『The National Interest』)。
日米を含む国際社会は、金正恩委員長がそうした人物であると仮定し、国際社会の対応に対し、金正恩委員長がどう自身の利害を判断し行動するかを考え交渉していくしか方法はあるまい。そうでなければ、そもそも交渉は成立しない。そしてその際、中国がその相対的には強い影響力をどう行使しようとしているかを見極めていくことが重要だ。
残念ながら、本問題については現状、国際社会が単に制裁を強化するだけでは、袋小路の状況が続く、あるいは事態がさらに悪化するだけの可能性が高い。