北朝鮮の挑発的な行動が続き、日米を始めとする国際社会は中国の対応が問題解決の大きな鍵を握ると考えている。本連載では、中国内外の中国語媒体などから、中朝貿易・投資の動向、またそれを踏まえた、中国の北朝鮮に対する意識、影響力をどう評価すべきかを探る。第2回目は、縮小する中国と北朝鮮間の投資の現状と、その影響を取り上げる。

3つの形態に分類される北朝鮮の対中投資

国内外投資を所管する中国商務部が主要国(地区)別投資動向を公表している(対外直接投資統計と外資統計)が、ここでも北朝鮮は主要国でないために詳細は明らかにされていない。韓国貿易協会北京代表処によると、北朝鮮の対中投資は2010年1122万ドルとピークを打った後大きく減少し、2013年は268万ドル、2014年は29万ドル、2015年は7万ドルと、ほぼ無視し得る金額にまで落ち込んだ(2016年11月15日付参考消息)。

 

他方、中国の対朝投資は総額のみ対外直接投資公報年報の付表に記載がある。それによると、ストックベースでは2015年末は6.25億ドルで、中国の対外総投資残高の0.06%、フローベースでは2012年1億946万ドルと過去最高を記録した後、減少に転じ、2015年は4121万ドル、対外総投資のわずか0.03%に落ち込んでいる(図表)。両国間の投資は近年双方向で急激に縮小傾向にある。商務部は8月25日、8月に採択された国連新制裁決議に基づき、同日から、北朝鮮企業あるいは個人が中国で合弁企業、外資企業を新たに設立すること、および既存企業の増資を禁止する旨の公告を発出した。

 

[図表]中国の対北朝鮮投資

(出所)中国商務部統計より筆者作成
(出所)中国商務部統計より筆者作成


中国地元報道に基づくと、北朝鮮の対中投資は大きく3つの形態に分類できる(2016年11月15日付『捜狐快評』等)。

 

①中国各地で開業している北朝鮮レストラン。最も目に見える投資で、2014年には中国全土に100店以上、北京だけで26店あった。中国が腐敗・汚職取締りを強化して中国の役人が使わなくなったことや、韓国が自国民に対して北朝鮮が経営するレストランの利用を自粛させたこと、さらに、2016年には北朝鮮側でも、寧波のレストラン従業員である北朝鮮人13名が脱北を図るといった事件があり、近年多くが閉鎖に追い込まれている。


②文化芸術関係。例えば、北朝鮮のアニメ技術は世界的にも一定の評価があり、価格競争力もあることから重要な投資項目になっている。朝鮮アニメ映画制作会社(SEK)が中国の河北柳京文化伝播と提携し河北地域に代表処を設置。北京の中国現代アートを中心にギャラリーやアトリエが並ぶ「798芸術区」や「朝鮮万寿台創作社美術館」があり、芸術作品の設計・制作にあたっている。

 

③中国企業に参画しそれを利用して、国際的な制裁の網を逃れ軍需関連部品等を購入。2016年9月、遼寧鴻祥実業発展会社(丹東所在、対北朝鮮との貿易・文化交流を手掛ける)が北朝鮮に核・ミサイル関連部品を不法輸出した嫌疑で、(安保理制裁決議を履行していることを示したい)中国当局から調査を受けたが、同社傘下の多くの企業には北朝鮮資本が入っている。同社の香港所在のペーパーカンパニー(中国で言う「皮包公司」)も香港で資金洗浄に携わり、北朝鮮の外貨獲得の手助けをした嫌疑を受けた。米国が最近、特に批判を強めている点だ。

 

 

 

米国財務省は8月、北朝鮮の核開発を援助し国連制裁決議に違反しているとして、海外の10企業、および6名の個人の米国内の資産凍結などの独自制裁を発表した。この中には石炭、鉄鋼、金融関連の5つの中国企業と中国人1名が入っている(丹東富地貿易、丹東天富貿易、丹東至誠金属材料、金猴集団、明正国際貿易、および丹東至誠金属材料のトップ。その他にはロシア人4名、ロシア1企業など)。

 

不法行為に関係しない場合でも、目立たない形で北朝鮮資本が入っている中国企業が多くある(瀋陽や遼寧のホテル、不動産企業など)。

 

他方、中国の対朝投資もその北朝鮮への影響力を見る上で重要だが、北京大学国際政治経済研究センターの調査によると、浙江や東北部の民営企業の自然発生的で規模が小さい投資が中心で、中国国営企業の投資は少ない。そもそも北朝鮮への外国投資全体が極めて限られており、中国の投資もほとんど無視し得る水準で、韓国の対朝投資に比べてもはるかに小さいという。投資を通じての北朝鮮への影響力は限られているとの見方だ。

中国内外での「中国の北朝鮮への影響力」の見方は?

中国の北朝鮮への影響力について、中国内外での見方は次の2つの対極に分かれる。


①中国は北朝鮮に対し決定的な影響力を有しており、北朝鮮を完全に制御できる。両国は同じ社会主義陣営として1961年中朝友好条約締結以来、歴史的に密接な関係にあり、北朝鮮の対外貿易の80〜90%は対中である(KOTRA推計では、2016年の対中貿易依存度は過去最高の92.5%。3年連続で90%超え)ことから、中国が食糧やエネルギー供給をストップすれば、直ちに北朝鮮を「死に追いやる」ことができる。


②中国にもはや北朝鮮を制御する能力はない。金正日時代は経済改革にも関心があって、多少とも中国の意見を聞く意思があったが、金正恩労働党委員長は経済改革に関心は低く改革は停止ないし後退し、全てにおいて軍事を優先させる「先軍政治」が一層先鋭化している。核・ミサイル開発が唯一体制を支える合法的基礎になっている状況下で、北朝鮮が中国の意見に耳を傾けることは期待できない。

 

こうした見方はいずれも極端で、現実はおそらく中間のどこかにある。北朝鮮はいわゆる「モスクワ派(旧ソ連派)」と「延安派(中国派)」が対立する中で、金日成主席が1955年に主体(チュチェ)思想を提起して以来、大国に服従せず自らの考え、道を堅持する姿勢を貫いてきた。金正恩政権になってから一層この傾向が強まり、「白頭山血統」による世襲制が政権の合法的柱になっている。

 

中国が仮に対朝貿易を止め経済封鎖をしても、北朝鮮に核・ミサイル開発を翻意させることにはならず、北朝鮮の一般の人々をさらに困窮に追いやるだけとなる可能性が高い(90年代の金正日時代、何十万人もの餓死者が出たと言われた時ですら、変化を拒み体制は生き残った)。これらの点から考えて、中国の影響力を過大に見るべきではない。

 

他方で中国が何もしない場合、それは北朝鮮問題での中国の「辺縁化(隅に追いやられる)」を意味し、外交的にも不利に働くことを中国当局はよく認識しているはずだ。北朝鮮に対し、絶対的ではないが他国に比べれば相対的になお一定の影響力がある(また、他国からそう思われている)ことを認識し、自らの利益に照らしそれをどう行使するのが得策か、中国当局は常に思案していると見るべきだ。

 

そして、その底辺には中国の北朝鮮に対する微妙な意識の揺れがある。最近、中国の北朝鮮専門家の「北朝鮮はもはや中国の戦友ではなく潜在的な敵」とした論評が出回ったが、当局から問題にされている様子はない。かつて2013年に、党雑誌「学習時報」の副編集長が英フィナンシャルタイムズ誌に「中国は北朝鮮を見捨てるべきだ」とする論文を掲載し、停職処分になったことと比較すると大きな変化と言うべきだろう。

 

 

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