旅館業法等では、衛生管理の細かいルールがあるが…
〝ヤミ民泊〟のリスクとしては、第一に「公衆衛生上のリスク」があげられるでしょう。
一般論として、民泊に対しては、「マンションや一軒家では、ホテルや旅館に比べてどうしても衛生管理がおろそかになるのではないか。不衛生な環境によって宿泊者の健康が害される危険があるのではないか」という懸念が寄せられています。
確かに、ホテルや旅館では、宿泊客が安全かつ清潔な環境の中で宿泊できる状態を保つために、旅館業法等の法令や厚労省等の告示、通達、あるいは業界で定めた自主ルールなどに従って、施設や寝具類の衛生確保、飲料水の管理、浴槽水の管理などについて事細かな措置が講じられています。
一例をあげると、厚労省の定める「旅館業における衛生等管理要領」では、寝具の洗濯方法について以下のように、具体的な規定が置かれています。
「①布団、枕、毛布及びこれに類するものは、日光消毒と十分なはたきを適切に行い、1月に1回以上、その中心部の温度をおおむね60℃30分間加熱乾燥する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法による加熱処理(暫定的処理基準とする)を行うことが望ましいこと。
また、布団及び枕にあっては、6月に1回以上その汚れ等を除去するため丸洗い(洗濯物に洗剤液及び水を直接吹きつけるなどして行う洗濯方法であり、もみ洗い処理工程がないものをいう。以下「布団丸洗い」という)を行うことが望ましいこと。この場合、布団丸洗いは、前記と同様の効力を有する加熱処理工程を含めることが望ましいこと。
②寝衣を除く丹前、羽織等の寝具衣類は、定期的に洗濯し、3月に1回以上消毒効果を有する方法で洗濯すること。」
旅館やホテルであれば必ず行う「レジオネラ症」対策
ホテル、旅館はこうした基本的な衛生管理を徹底して行っていることに加え、さらに特定の感染症や害獣・害虫による健康被害を防ぐための特別な対策も行っています。その具体例の一つとしては、「レジオネラ症」に対する予防の取り組みがあります。
レジオネラ症は「レジオネラ属菌」という細菌が原因で起こる感染症であり、症状のタイプは「ポンティアック熱」と「レジオネラ肺炎」の2種類に分かれます。「ポンティアック熱」は発熱や頭痛、筋肉痛などの症状で通常はそれほど重くなりません。
一方、「レジオネラ肺炎」は高熱や呼吸困難、吐き気、意識障害などが引き起こされ、死亡に至ることもあります。2016年6月にはレジオネラ菌に感染した千葉県市川市の59歳になる会社員男性が発熱や嘔吐、呼吸困難などの症状を訴え、医療機関に入院した後、1週間もたたないうちに死亡したケースが報道されています。
とりわけ、公衆浴場、旅館業の入浴施設や加温プール等の施設はレジオネラ属菌が繁殖しやすく、衛生管理が不適切だとレジオネラ症に感染するおそれがあります。実際、ホテル・旅館等ではレジオネラ菌による被害が頻繁に発生しており、たとえば2014年には、名古屋市の旅館で長期滞在していた60代の男性がレジオネラ症に感染した例が確認されています(症状は発熱や咳せきなど)。
そのため、「レジオネラ症」による宿泊者の感染被害を防ぐために、宿泊業者は、厚生労働省の指導の下、以下のような対策などに取り組んでいます。
①管理記録の作成と保存入浴施設の自主的測定結果に基づく管理計画をたてて実施し、消毒・換水・清掃などの記録を残し、細菌検査結果とともに保存する。
②残留塩素測定レジオネラ属菌の消毒には、塩素が有効。そのために、遊離残留塩素濃度を維持できるよう、測定キットによる定期的な測定に努める。
③細菌検査衛生管理が適切に行われているかどうかを確認するため、レジオネラ属菌の検査を行う。検査は衛生状態に応じて実施し、検査結果は3年以上保存する。
[図表]レジオネラ症の患者報告数