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経営者が農業従事者に学ぶべき「投資回収サイクル」とは?

前回は、中小企業経営者が「農業」から学べる知恵について取り上げました。今回は、経営者として学ぶべき、農業従事者の「投資回収サイクル」について見ていきます。

実行と検証を繰り返すことで磨かれる企業運営能力

気まぐれな天候に左右される農業が、この日本でなぜ営々として継続できてきたのか。その理由の一つは、投資の結果が早く得られるからだと私は見ている。

 

通常の稲作であれば、4月に田植えをして収穫が10月。半年で計画から投資、回収までのサイクルがひと回りすることになる。さらに米と麦の二毛作に取り組めば、1年で2度の収穫、つまり2度の決算を迎えられるのだ。

 

投資から回収までのサイクルが速い。これは、反省する機会も早く訪れることを意味する。投資が成功すれば次回に活かし、失敗すれば反省して計画を見直し、次の行動に移る。このようにPDCAサイクルを速く回せるため、来期への意欲をかき立てやすく、プランニング能力も身につきやすいのだ。

 

経営計画の策定能力や企業運営能力は、経営者自らが実行と検証を愚直に繰り返すことで磨かれていく。いわば農業分野は経営者としての能力を高めやすい絶好の環境なのである。

 

さらに農業従事者は自責思考が身についているから、仮に天災を被る年があったとしても責任を転嫁せず、新たな実りの準備を行い、収穫への一歩を踏み出してきた。こうして農業は、厳しい自然と対峙しながらも連綿として続いてきたわけである。一方、商工業の世界では、事業投資の成果が出るのは早くて数年後だろう。仮に3年後だとすれば、農業の6倍である。余程の経営理論がなければ、投資を完全に回収するまでの期間、経営を安定させつつ乗り切れるものではない。

 

にもかかわらず、現在は経営のスピードが求められる時代であり、市場は事業投資が実るまで悠長に待ってくれない。常に焦りを感じている経営者は市場の要請を受け、早期に結果を出そうとする。本来時間がかかる事業成果を早く得たいと苦しみ、苛立ち、つい稚拙な経営に走って事業投資を失敗させてしまうのだ。

 

しかし焦ってはいけない。農作物においても我慢は必要である。たとえば無農薬を目指せば害虫との格闘だ。駆除しても駆除しても翌日には虫が湧いてくる。それでもめげずに淡々と駆除を続ける先に豊かな実りが待っているのだ。

 

農業には農業の投資回収サイクルがあり、商工業には商工業の投資回収サイクルがある。成熟のスピードを見極めて綿密に計画し、事業を育てていかなければならない。

人材採用において重視したい「稲」人材とは?

人材育成についても農業思考が参考になる。前述のように、農業経営では事業にかかわる経験を速く、深く身につけることができるため、人材育成にかかるスピードが商工業に比べて相当速い。私の感覚では仮に農業に3年従事すれば、商工業の10年に匹敵するほどの経験とノウハウを養えるといっていい。

 

しかし商工業者は事業投資と同様、採用した人材を早く戦力化しようとする。その結果、社員は過剰な労働を強いられ疲弊し、退職に至ることもある。人材育成には時間がかかると覚悟して、短期利益を求めずじっくりと取り組んでほしい。

 

さらに人材採用についても農業思考が当てはめられる。水稲栽培で最も厄介とされる雑草に"ヒエ"がある。ヒエは稲と酷似しているため、穂が出てくるまで判別が難しいのだ。そのため、気づかぬうちにヒエが稲の田に広がってしまうことがある。

 

ヒエは稲に比べて株が大きく草高も高い。従って栄養分の吸収量が多く、稲の収穫量を著しく低下させてしまう。また、引き抜き作業も重労働で、水稲栽培ではいかにヒエを根絶するかが大きな課題の一つとなっているのだ。

 

植物を人間に置き換えるのは暴論かもしれないが、企業の人材採用においても「稲」と「ヒエ」とをしっかりと見極めなければならない。間違ってヒエ人材を採用すると、貴重な稲人材の働く意欲を吸い取ってしまう可能性があるからだ。そうなると組織の活力は失われ、規模の小さな中小企業は経営に深刻なダメージを受けてしまう。

 

私自身、これまで多くの中小企業の経営をサポートするなか幾度となく、ヒエ人材が労働争議を起こして組織を混乱に陥れる現場に遭遇してきた。その結果、人材を採用する際は、見た目のハツラツさなどだけで選んではいけないという教訓を得るに至った。

 

自社の経営方針や理念を共有できる人材なのか、入社後も素直に仕事に打ち込んでくれる人材なのか、慎重に見極める必要があるのだ。

京都ビジネスコンサルタントセンター 代表取締役
税理士/経営コンサルタント/社会保険労務士/行政書士 

昭和10年京都生まれ。
昭和31年学卒、会計事務所勤務を経て、民間食品製造会社入社。
その後公的機関で経営指導員として企業診断、経営診断、経営相談・指導に従事。指導対象企業は1万5000社を超える。
昭和47年4月1日石原会計事務所を開業。同月14日京都ビジネスコンサルタントセンターを設立し、代表取締役に就任。会計事務所経営と併せて、43年間にわたり中小企業の経営助言・支援・指導に積極的に取り組む。
昭和56年、異業種組合たる仁智会事業協同組合の府認可・設立とともに代表理事に就任。京都府より委嘱された特別経営指導員および中小企業復興公社経営診断員として商工行政にも深くかかわり、京都商工会議所にて小規模事業者経営改善資金審査会の審査委員および同委員長を13年務め、延べ1万社以上の中小企業融資審査を行っている。
また京都府農業会議にも顧問として参画し、遊休荒廃農地の解消、集落営農・地域農場づくりにも力を注いでいる。

著者紹介

連載「万年黒字経営」を実現するための鉄則

本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

 

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

石原 豊

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の企業の約7割は赤字という現実があります。現在の日本企業の回復基調はあくまでも一時的なものであり、ほとんどの中小企業は根本的な解決には至っていません。また、人手不足や消費の冷え込みといった課題があるように、…

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